【イオニュース PICK UP】クルド人問題ではない、日本社会の問題/在日クルド人排斥めぐる訴訟
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第2回口頭弁論開かれる
訴状によると、被告の渡辺賢一氏は、在日朝鮮・韓国人排斥デモを繰り返してきた「在日特権をゆるさない市民の会」の後継団体「日本第一党」のメンバーで、2023年9月頃から協会事務所周辺でたびたびデモを実施してきた。
訴訟で原告側は、渡辺氏の行為が、名誉棄損や人格権侵害に当たるとしている。一方で昨年11月、さいたま地裁は、当該デモの差し止めを求めた協会側の申し立てを受け、事務所の半径600メートル内でのデモを禁止する仮処分命令を出している。今回の訴訟は昨年の同決定に続く本訴となる。
今年4月の第1回期日で裁判所は、原告と被告の間に事実認識の相違があることを前提に審理を進めるとして、原告に対し、当該デモにおける具体的な言動と発言者の特定を求めた。また予定された被告側の陳述は、代理人欠席という異例の事態および原告への反訴状に誤記があることから次回に持ち越され、原告代理人のみが陳述書を読み上げて閉廷した。
第2回目の期日となったこの日は、第1回同様に事前に整理券が配布され、抽選で44人が傍聴。原告側から、シカン・ワッカス協会代表理事が意見陳述を行い、つづく被告側からは、代理人の杉山程彦弁護士が意見陳述した。
ワッカスさんは、被告側が指摘する「PKKへの資金提供」について改めて否定したうえで、デモやそれを撮影した動画がインターネット上で拡散されたのを機に、クルド人に対する誹謗中傷やヘイトスピーチが急増したことに言及。これらが「日常生活に大きな支障をきたしている」として、トラブルへの巻き込まれを懸念したビル側の賃貸拒否、協会への苦情電話のほか、「クルド人、死ね」と書かれたハガキが届く、事務所の爆破予告メールが続くといった被害事例をあげた。また子どもたちの被害についても、学校で「トルコに帰れ」と言われ、いじめられているとして、「日本で暮らすことは以前よりも格段に難しくなった」と深刻な状況を嘆いた。
その後、意見陳述した被告代理人の杉山弁護士は、「一個人を訴える裁判に原告側弁護団は83人もいる。(クルド人が)真のマイノリティならこんなに集まるわけがない。裏があるはず」と主張。これに対し、傍聴席から失笑が漏れると「笑うな」と声を荒げながら、「一見おどろおどろしい活動にみえるかもしれないが、普通のデモをしている」として「表現の自由の保障」を訴えた。そして最後に、今般の訴訟が「弁護士会による真の少数派に対するリンチ」だと訴え、発言を結んだ。
被告らによる当該デモは「自爆テロを支援するクルド協会は日本にいらない。テロを肯定する外国人との共生はない」「根絶せよクルド犯罪と偽装難民」等とプラカードを掲げて協会事務所周辺を行進するもので、参加者は、それに煽動されて「不良外国人は日本から出ていけ」「クルド人は祖国に帰れ」等と叫んでいる。
同裁判で、被告側は、原告が2023年のトルコ地震の際に、日本国内で募金を募り本国へ義援金を送ったこと、またクルド伝統の祭り「ネウロズ」の飾りのなかにPKK(トルコからの分離独立を目指し武装闘争を展開してきたクルド労働者党の意)の旗があったことなどを理由に、原告が「本国の自爆テロを支援した」と主張、行為の正当性を訴えている。
「外国人優遇」デマ叫ぶ、選挙ヘイトへ警鐘
閉廷後、記者会見および報告集会が浦和市内の施設で開かれた。
会見で、原告代理人の伊須慎一郎弁護士は、裁判の進捗状況について報告したうえで、被告の言動は、今回被告側が主張したような「正当な表現行為」ではないこと、それを裁判所にわかってもらえるよう、きちんと反論を準備したいと語った。
またワッカスさんは、今回のケースはクルド人が標的となったが、こうした差別の痛みは「そのほかの民族や国を背景に持つ人々も共有するもの」だと訴える。だからこそ「裁判で負けないよう頑張りたい」と語りつつも、「正直『クルド人』というワードがあまり話にあがらないようにしてほしい。平和に暮らしたい」と本音をこぼした。
また原告代理人の師岡康子弁護士は、被告側が主張した「(当該発言は)表現の自由」に該当するといった一連の発言について、「まぎれもなくヘイトスピーチだ。これは表現の自由として許されるものじゃないし、あのような主張は通用しない」と被告側の主張を非難した。
一方、6月2日には埼玉県議会議員らが「視察」の名目で、クルド人らが経営する川口市内の解体資材置き場周辺を訪れ、それに抗議したクルド人たちを議員が刑事告訴するという事態がおきた。会見でこれに対する協会の考えについて質問が出ると、代理人の神原元弁護士が発言した。
神原弁護士は、「公務の執行という名目であればなおのこと、(議員らの行為は)プライバシーの侵害にあたる」と指摘。そのうえで「外国人に対し、治安維持を名目にすれば何をやってもいいというような風潮がある。人の住む場所を勝手にのぞき込むなど、日本人同士だとありえないわけでしょう。それに対して刑事告訴をするなんて、こんなものを野放しにする社会はめちゃくちゃだ」と強く非難した。
また議員らが今月1日に会見を開き、「写真は撮っていない」「公道から見ているだけだから問題ない」などと主張したことについて「のぞくのが問題なのであって、公道からのぞいたから、というのは屁理屈」だと一蹴した。
また師岡弁護士は、20日に予定される参院選を前に各党の選挙活動が過熱するなか、「(候補者たちが)排外主義を煽る政策を競争するように出している」と憂慮する。
「『外国人の優遇策を改める』と言っているが、『優遇策』など存在しない。また『ルールを守らない外国人をゼロにする』など、あたかも外国人は脅威で得をしているかのようなデマを前提に、それをなくすことを訴えている」(師岡さん)
最新のJNN世論調査では、外国人の入国管理などについて「規制を強めるべき」と考えている人が全体の78%に及んだ。師岡弁護士は、こうした状況は「そもそも外国人への差別扇動、とりわけインターネットの悪影響が広がってしまっていることが問題。さらに政治家や政府、自治体、公的機関など、差別をなくさなければいけない義務のある人たちが、選挙という形で差別している」と指摘。選挙における排外主義キャンペーンに、反対の声をあげてほしいと強く訴えた。
この日の会見に同席した在日クルド人男性や弁護士は、今回の問題が「実際のところ、クルド人問題ではなく、日本の、日本社会の問題」だと口をそろえた。
文、写真:韓賢珠