在日朝鮮人美術はいかに語りうるか/古川美佳●朝鮮美術文化研究
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企画展は3月22日まで開催中だ。(筆者提供)
「いつもとなりにいるから 日本と韓国、アートの80年」展から
現在、横浜美術館で1945年以降の日韓美術の関係史をひも解く「いつもとなりにいるから 日本と韓国、アートの80年」展が韓国国立現代美術館との共同企画で開催中だ(2025年12月6日〜2026年3月22日)。発案者で在日コリアン3世の日比野民蓉横浜美術館主任学芸員は、「日本と韓国と在日コリアンの作家たちを並列にみる」「一番近い相手を鏡に、自分自身を見つめ直してみる作業」を試みたという。だがいっぽうで、「いつもとなりにいる」朝鮮半島の北側・朝鮮民主主義人民共和国(以下、地域の場合:北、国の場合:共和国)と日本はいまだ正常な国家関係を確立していないという「異常な状況」にある。そんな中、「日韓の枠組み」から在日朝鮮人美術家たちの活動をどこまで読み込むことができるだろうか。
在日朝鮮人美術家という「鍵」
その「鍵」となりえているのが、展覧会第1章「はざまに―在日コリアンの視点」に展示されている在日朝鮮人美術家たちの作品や資料だ。この章があるだけで展覧会の相貌が違って見える―なぜか。それは、日本で忌避されてきた矛盾や葛藤を「我がこと」として生きざるをえなかった者たちの足跡が照らし出されているからである。

「いつもとなりにいるから」展の展示風景。(第1章より、横浜美術館提供)
つまり、1945年植民地からの解放、1950年朝鮮戦争、南北分断の固定化、そして1965年日韓国交正常化に至る約20年という「空白期」を、「在日コリアンを軸に」たどることにより、北側への想像力までもが喚起されるのだ。これにより、韓国だけではない共和国を含む人びとの「総体的な生」が一瞬、開示されることになる。
在日朝鮮人の視覚的息づかい
例えば、曺良奎については、共和国へ渡るまでの日本の文化芸術関係者との交流の資料が河正雄コレクションを通して新たに発掘され、作品の優れた表現力とあわせ臨場感を増す。それにもまして心惹かれるのが在日朝鮮人美術研究者・白凛ら「一般社団法人在日コリアン美術作品保存協会」からの出品作だ。白玲、韓東輝、成利植、金煕麗らは祖国の分断や混乱にもかかわらず、自らの民族美術を模索し日々をたくましく生きる在日朝鮮人たちの息づかいを伝えている。

金煕麗(1926―2007)《密航》(1961年、一般社団法人在日コリアン美術作品保存協会)作品写真はすべて横浜美術館提供。
そして「もの派」の李禹煥に影響を与えた郭仁植のガラスを割った記念碑的作品は、分断され「割れて」ゆく朝鮮半島への衝撃や憤りがガラスを「割る」行為へとつながって生まれたともいわれていることはあまり知られていない(ギャラリーQ上田雄三の言)。
さらに日本のフォトジャーナリスト林典子は、共和国に暮らす「他者」としての日本人女性(妻)たちの寡黙で強い意志を写し出す。

灰原千晶、李晶玉ほか《区画壁を跨ぐ橋のドローイング》(2015年、個人蔵)
だが1959年の帰国事業を伏線にしたこの章での在日朝鮮人たちの存在は、しばし展覧会からは姿を消す。
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以上が記事の抜粋です。全文は本誌2026年3月号をご覧ください。
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