【特集】祖国解放80年 歴史と向き合う
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日本による朝鮮などアジア諸国への侵略・植民地支配責任がいまだ清算されないなか、加害の歴史を否定する動きは顕著になり、在日朝鮮人や朝鮮学校に対する差別も止むことを知らない。祖国解放80年という節目に、私たち在日朝鮮人が向き合うべき歴史の諸課題を見つめました。
ルポ・場所は語る
各地には歴史の欠片が無数に散在している。
軍備増強に象徴される「戦争をする国」と化した日本の「原点」、植民地支配の爪痕が残る在日朝鮮人ゆかりの地を訪ねた。
地域に根づく 強制労働の歴史 相模ダム(神奈川)

1940年に建設が始まり47年に完成した相模ダム
「湖の底で」(一部抜粋)※
水道から唇をぬらし私の身体を流れる水
毎日横浜と川崎の人々をうるおす水・・・
詩人・佐川亜紀の第一詩集「死者を再び孕む夢」(詩学社)に収録された相模湖(神奈川県相模原市)をテーマにした自作詩「湖の底で」(※参照)。この詩は相模川をせき止めた人造湖で、ダムを建設するために犠牲となった多くの朝鮮人を鎮魂する内容となっている。・・・

350人が集まった第47回「相模湖・ダム建設殉職者合同追悼会」
この日は、ちょうど47回目の「相模湖・ダム建設殉職者合同追悼会」(後援=神奈川県)と関連展示会が行われると聞き、湖を一望できる県立相模湖公園周辺を少し見て回ったのち、会場へと向かった・・・
世代を超え、共に
追悼会を前に続々と人が集まるなか、会場内奥に人だかりを見つけた。駆け寄ってみると、紙芝居の読み聞かせが行われていた。
「私たちがいつも見ている相模湖、花火が打ちあがるような楽しいところだとしか知らなかった。けどそれだけじゃない。リアルな言葉で伝えたいと思った」そう話す石毛祥子さん(44)は・・・
水を利用する限り

ムからすぐの場所に1947年に当時の県知事名で建てられた慰霊塔がある(62年に石製で再建)

ガイドをつとめた「記録する会」の田中造雅さん
追悼会が終わる頃、すでに外は日が沈もうとしていた。ダム上流にある相模湖大橋の上で献花をし、徒歩で公園へ。たくさんのトンボが飛びまわる湖畔に犠牲者83人(うち朝鮮人は17人と推定)の名が刻まれた「湖銘碑」があった。碑は、「記録する会」など長年の地元の運動によって1993年、当時の県知事の名で建立されたものだ・・・
「廣島」と「ヒロシマ」のはざまで 平和記念公園と「軍都」跡地(広島)

平和記念公園内の原爆ドーム
加害の不在
蒸し暑さが体を包み込む7月上旬、平和記念公園(広島市中区)に足を運んだ。在日本朝鮮青年同盟広島県本部が企画したフィールドワークに同行取材するためだった。
原爆ドーム前に集合した在日朝鮮人青年たち。辺りでは、観光客の話し声、カメラのシャッター音に、時折聞こえる外国語が混じり合う。骨組みだけを残したドームは、1945年8月6日8時15分から時が止まったかのようだ。ここ直上約600m上空で原子爆弾が爆発した・・・
「消された声」を継ぐ

韓国人原爆犠牲者慰霊碑
ちょうど朝ごはんを食べているときでした」。11歳で直接被爆した在日2世の朴玉順さん(91)は記者の聞き取り取材にこう答えた。「ピカッと光ると、ドーンという音とともに家が潰れました。親戚の家にいたのでなんとか大人の後をついていって逃げた気がします・・・

「朝鮮半島出身原爆被害者を追悼する会」が8月2日、広島市内の施設で行われた
8月2日、ふたたび広島へ飛んだ。被爆80年の今年、広島で朝被協が主催し、初となる朝鮮半島出身原爆被害者追悼会が開かれると聞いてのことだった・・・
〝戦争はもっといけない〟
集会後、「軍都・廣島」を象徴するスポットを巡った。「廣島大本営」跡は、広島城のすぐ近くに位置する。あたりに人がぽつぽつ見られるだけの静かなところだった・・・
加害の歴史反省、過去清算へ誠実な取り組みを
祖国解放80周年記念シンポ
「植民地主義の清算と民族差別撤廃に向けて」

ンポには270人あまりが参加した
祖国解放80周年記念シンポジウム「植民地主義の清算と民族差別撤廃に向けて」が7月13日、日本教育会館(東京都千代田区)で行われた。シンポジウムは朝鮮人強制連行真相調査団と在日本朝鮮人教職員同盟が共催。長生炭鉱水没事故の犠牲者の遺骨収集活動、強制連行犠牲者の遺骨奉還、「群馬の森」追悼碑の強制撤去問題、朝鮮学校差別という4つのテーマで報告があった。
日・朝・韓の共同事業に
はじめに、「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会(刻む会)」の井上洋子共同代表が「長生炭鉱遺骨を放置して未来志向はない」と題して報告を行った。
1942年2月3日に山口県宇部市の長生炭鉱で発生した水没事故によって183人の炭鉱夫が死亡した(そのうち136人が朝鮮人)。犠牲者の遺骨は現在も海底に放置されたままだ・・・
「遺骨問題は人権問題」

金哲秀さん(東京朝鮮人強制連行真相調査団)
続いて、「祐天寺にある朝鮮人強制連行犠牲者の遺骨と朝鮮民主主義人民共和国への奉還について」というテーマで東京朝鮮人強制連行真相調査団の金哲秀さんが報告した。
東京都目黒区にある祐天寺には朝鮮人強制連行犠牲者の遺骨が700柱安置されている。軍人・軍属として戦死した人々、「浮島丸」沈没事件の犠牲者、BC級戦犯死刑者の遺骨だ・・・
「歴史の事実に学ぶ」

川口正昭さん(戦後80年を問う群馬市民行動委員会)
続いて、「群馬の森」朝鮮人犠牲者追悼碑への思いを引き継いで」と題して、「アクション80」の川口正昭共同代表が報告した。
2004年、県立公園「群馬の森」に朝鮮人強制連行犠牲者追悼碑「記憶 反省 そして友好」が建立されたが、「碑文が反日的だ」とするヘイト団体の抗議活動に屈した県が14年7月、碑の設置許可更新を不許可に・・・
朝鮮学校排除は「官製ヘイト」
最後に現代教育行政研究会代表の前川喜平さんが「朝鮮学校に対する『官製ヘイト』について(無償化からの排除を中心に)」と題して報告した・・・
寄稿 歴史修正主義にどう向き合うか
「参加型文化」がもたらす歴史の歪み
倉橋耕平 ●創価大学文学部准教授

県立公園「群馬の森」朝鮮人追悼碑の撤去期日前、多くの人が碑の前で、犠牲者を偲んだ(2024年1月28日)
戦後80年を迎えた。しかし、戦争と植民地支配の責任問題はまだ終わりを告げていない。そして、それをかき消す「歴史修正主義(歴史否定論)」はもはやデフォルトであり、それが正しいものとしてまかり通ってしまっている・・・
商業メディアを利用した拡散

排外主義団体「そよ風」の集会に抗議する市民たち(2023年9月に横網町公園(東京都墨田区)で行われた関東大震災100周年朝鮮人犠牲者追悼式典)
「南京大虐殺はなかった」「『慰安婦』は自発的な売春婦だ」「東京裁判史観による自虐史観が広がっている」「日本が朝鮮を植民地化したおかげで近代化した」…こうした言説を「歴史修正主義/歴史否定論」と呼ぶ・・・
放置した余波
以上の展開の余波は続く。いまや歴史修正主義言説が権威化されてしまった感がある。結果、マスメディアへのコントロールは強まり、2017年6月に英字紙『ジャパン・タイムズ』は右派人脈によって買収され、政府は国外向けに「歴史戦キャンペーン」を展開するようになった・・・
1945年に生まれて
1945年、祖国解放の年に生まれた2人の同胞に、80年来、自身を取り巻いた社会の状況や歩んできた道のりについて聞きました。
教え子たちに誇れる人生を 玄慶玉さん(80)●1945年2月1日生
戦争が終わる半年前の1945年2月、疎開先の石川県で父・玄仁鳳と母・高申生の長女(2男4女)として生まれた。8・15(祖国解放)を迎えて、実家のある大阪に戻った。
〝해방아(解放児)〟―祖国解放の年に生まれた子どもはこう呼ばれたが、해방아としての人生を振り返って一番よかった出来事はウリハッキョ(朝鮮学校)に通えたこと・・・
〝先代の歴史、改めて学ぶ時期〟李東済さん(79)●1945年10月12日生
祖国の解放から約2ヵ月後の1945年10月12日、茨城県土浦市常名町で生まれた。わが家では、慶尚北道・安東で書堂の講師をしていた父が、生計を立てるために日本へ渡り、その10年後、生活の拠点が築かれた後に、兄と母が日本へ渡ってきた・・・
記事全文は本誌2025年9月号をご覧ください。
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