暗い時代だからこそ、 元気と笑いをくれる映画を/【インタビュー】最新作 『TOKYOタクシー』大ヒット上映中、山田洋次監督
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文:李相英、写真:鄭愛華、柳仙珠
―『TOKYOタクシー』を公開初日に観ました。人生の喜びと悲しみ、その中でふと訪れた出会いの奇跡を描いたヒューマンドラマで、鑑賞の余韻がいつまでも残る印象的な作品でした。日本でもヒットしたフランス映画『パリタクシー』(2023年日本公開)を原作にされていますが、その理由をお聞かせください。
『パリタクシー』は、フランス映画の特徴でもあるけど、タッチが軽快なんです。こういう作品は最近の日本映画に少ないな、と思って。最近の映画はみんな重くなっているでしょ。重苦しい世界情勢、世相を反映しているんだろうけど。『パリタクシー』を観たときに、こういう軽やかな作品も見たいんじゃないかなと思ったのが始まりです。重苦しい時代に重苦しい映画を作るのはわりとやさしい。重苦しい時代に軽やかな映画、観終わって元気になれるような映画、いやなことばかりだけど元気を出して生きていこうという気持ちになれるような映画を作りたい。それをこの作品を原作にしてできるのではないかと思ったんです。
―主演の倍賞千恵子さんは山田監督作品では70本目の出演だとのことですが、監督にとって倍賞さんはどのような存在ですか。
彼女がデビューしたのは60年ほど前のことだけど、私は彼女をその当時からよく知っています。当時はスター女優というと、きれいにお化粧してハイヒールをはいて、あるいは着物を着てしゃらりと歩くお嬢さんや若奥さんを演じるのが定番でした。でも倍賞さんは違った。裏長屋でお米なんか研いで、「お豆腐ちょうだい!」とか言いながら、ザルを持って表に飛び出していくような演技ができる人。前掛けにサンダル履きの姿で、長屋の路地を走り抜けるのが似合うスターということでみんなびっくりしたんです。彼女を主演にしたら、貧しくても懸命に生きる労働者の物語もできる。デビュー当時からリアリズムの女優でした。だから当時の若い監督たちはみな彼女にあこがれて、彼女を主演にして映画を作りたいと思ったものです。
彼女がなぜそういう演技ができたのか。両親が労働者だったということも関係してるんじゃないかな。父親は都電の運転士で、母親はバスの車掌。労働者同士が結ばれて家庭を築き、そこで生まれ育ったのが彼女です。小さい時から働く人の暮らしを知っていて、働く女性を表現できる。『男はつらいよ』で寅さんの妹、「下町のお店で働くしっかり者のさくら」の役は絶対に彼女じゃなければいけなかったんです。
今作ですみれは「柴又で苦労して育った女性」という設定だから、その意味では彼女、役作りであまり苦労はしなかったんじゃないかな。下町の裏長屋で育って、恋愛をして、不幸な事件を起こして刑務所に服役。出所してから事業で成功して、お店の経営者にまでなった。すみれが歩んできた人生は壮絶で波乱万丈です。
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以上が記事の抜粋です。全文は本誌2026年1月号をご覧ください。







