【特別企画】密着・朝高ラグビー
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悲願の「花園」を目指し、秋の予選に挑んだ大阪朝高、東京朝高の両ラグビー部。朝高エンブレムに誇りを抱き、仲間たちと切磋琢磨しながら成長していく朝高生たちを追った。勝利への渇望と青春が交差する等身大の姿を記録した特別企画。
大阪朝高試合レビュー
花園へ続く道に、「懸命」を刻む

朝高伝統のディフェンスが光った決勝、敗戦こそしたものの選手たちは最後まで懸命に闘い続けた
今年の大阪朝鮮中高級学校ラグビー部は、スローガン「懸命」を胸に、一人ひとりが「命を懸けるような覚悟」で府予選に臨んだ。プレーヤーは22人。人数は決して多くないが、学年を越えた結束力はどこにも負けない。「予選決勝こそ、このチームの集大成だ」。文賢監督の言葉どおり、府予選3試合すべてに、彼らの「懸命」が刻まれた。全国大会予選となる初戦、準々決勝の相手は関西大学第一。湿った土のグラウンド上に強い風が吹く中、久しぶりの公式戦とあって硬さが目立ち、開始直後からピンチが続く。ベンチからは「持ちこたえろ!」の声。その後朝高は徐々に落ち着きを取り戻すと、20分過ぎに反撃開始。ラインブレイクをきっかけに追加点を重ね、前半を優位に折り返した。「前半はガタガタ。こんなん朝高じゃない」と、前十字靭帯断裂で離脱中の共同主将・申友暻さん(高3、FB)。後半は堅守を武器に「朝高らしさ」全開に。53―0の快勝で初戦を突破した。…
密着ルポ
挑戦と成長の軌跡

今季のスローガン「懸命」が刻まれた練習着
全国大会予選の初戦、準々決勝を目前にした10月末、大阪朝高ラグビー部の練習を訪ねた。今季はプレーヤーが3年13人、2年5人、1年4人の22人、マネージャー2人の計24人。100人規模で「花園」を目指す強豪校に比べ、人数では確実に劣勢だが、朝高ラグビー部としてのプライドと、チームの結束力が、それを十二分にカバーしている。密着取材を始めた当初、チームに抱いた印象だ。なかでもこの間に見た3年生たちの成長と変化が、伸びしろある同校ラグビー部の現在地をはっきりと示していた。その象徴が、共同主将の崔皇鳳さんと申友暻さん。どちらも明るく負けず嫌い。練習でも試合でも声を張り上げ仲間を鼓舞する、チームの空気を体現する存在だ。

予選決勝から数日後、高2・高1の新チームが始動した。写真は練習後の一枚。高3の生徒たちも練習に参加しチームを盛り上げている
大阪朝高ラグビー部では、公式戦前日に毎回、伝統の“儀式”を行う。自身の背番号と名前を順に叫んでいき円陣を組んだ後、一人ずつ試合への意気込みを叫びながらタックルをするそれだ。準々決勝前日の儀式で、皇鳳さんは今季のスローガン「ヒョンミョン!(懸命)」を叫んだ。マネージャーの郭瑞絢さん(高3)いわく、チームのスローガンは毎年高3が中心になって決める。昨年が「革命(朝鮮語で『ヒョンミョン』と読む。今年の懸命と同じ読み)」だったこともあり、今年は、それをつなぐ意味で「懸命」を掲げた。「自分たちらしさが一番出ているスローガン」だと瑞絢さんは笑う。…
東京朝高試合レビュー
刻んだ「意地の1トライ」

準々決勝(11月2日)で先制トライをあげるHO洪有辰(3年)。アボジの影響で中級部からラグビーを始めた
今シーズンの東京朝鮮中高級学校ラグビー部は、新人戦で9年ぶりに東京都「4強」に返り咲き、春季大会でもベスト4をキープ。全国大会予選をシードで迎えた。伝統的なモールの強さに加え、キックゲームで優位に立つことができるのが今季のチームの特徴だ。
東京朝高のグラウンドで迎えた初戦・準々決勝(10月19日)の相手は早稲田大学高等学院。開始直後に先制を許すも、モールを起点としたトライでペースを取り戻し、ディフェンスで失点を抑える。後半、183cm、103kgのNO8河俊輝主将が相手を押しのけながら豪快なトライ。けがに悩まされたHO梁賢宇(3年)が初の公式戦でトライを取るなど得点を重ね、64―5の快勝で試合を終えた。普段はSHで、この日1年生ながらゲームメイクを託されたSO康了仁は「いろいろ考えずにできることをしようとプレーした。結果、自分でトライも取れたのでよかった」と振り返った。監督の呉昇哲は「チームの出来としては70%。公式戦の難しさを感じた」と評した。…(敬称略)
密着ルポ
「素人軍団」が10年ぶり決勝へ 創部半世紀の覚悟
勝ちにこだわる
10月中旬、東京朝鮮中高級学校のグラウンドに足を運んだ。花園予選の準々決勝を翌日に控えた前日練習。選手たちの表情に緊張と覚悟が入り混じっていた。ユニフォーム伝達式が行われ、同校教員の呉昇哲監督(47)から出場選手たちに青と紺色のジャージが手渡された。

東京朝高のグラウンドで迎えた全国大会予選の初戦。円陣を組んだ先に見えるのは10年前に花園に出場した際に東京青商会から送られた横断幕(右)と、創部50周年を機に辰野永さん(同部後援会・前名誉会長)の知人から送られてきた「大漁旗」ならぬ「大勝旗」
創部50周年を迎えた今年度の部員は38人(選手35人、マネージャー3人)。「今年のチームは未経験者が多い」。呉監督はそう切り出した。高3の選手17人のうち、中級部からラグビーを続けている経験者はわずか3人。残りのほとんどは高校から楕円球に触れた、いわば「素人軍団」だ。
河俊輝主将(3年)も高校からラグビーを始めた。「最初はラグビー自体が怖かったし、先輩についていくだけだった」が、続けていくうちに背中でチームを牽引する存在に。「自分たちの試合を通して初中級部生に少しでも影響を与えて、在日朝鮮人ラグビー界を盛り上げていきたい」と意気込んでいた。

初戦の前日、車咲良さん(3年)たちマネージャーから選手たちにラグビーボールを模したお守りが手渡された
今年はチームで決める目標とスローガンの他に掲げたものがある。「勝ちにこだわる」ということだ。「新人戦でいい試合をして、春の大会では慢心からどんどん悪い流れになり、関東大会では勝てる相手にも負けてしまった」。河主将は悔しさをにじませる。「チーム内で意識の格差があった。それから高3全員で1週間、部活も出ずに本音で話し合いをした」。
練習終わりの風景から垣間見えた高3の雰囲気は賑やかだ。しかし「俺たちのカラーでは勝てない。創部50年の年、OBや同胞たちのためにも結果を残さなければいけない。勝利にこだわろうとマインドを統一した」(河主将)。…
以上が記事の抜粋です。全文は本誌2026年1月号をご覧ください。
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