Vol.16 トランプ政権が掲げる 「ドンロー主義」
広告
Q1 モンロー主義とは?
第5代大統領ジェームズ・モンローが、1823年12月2日に行った一般教書演説の一部を指すもので、①神聖同盟国家(※A)による米州大陸諸国家の植民地化拒否、②欧州情勢への不干渉、③神聖同盟国家と米国の勢力範囲を、それぞれ欧州と米州に限定する、「勢力範囲の分離」から成り立つ。当時、国家形成途上にあった米国は、奴隷制をめぐる対立など、内政上の脆弱性を抱えていた。スペイン帝国の解体に伴い、大きな戦略的価値を持つ南米地域では新たな独立国家と欧州君主国家間の勢力争いが生じており、米国はその影響が自国に及ぶのを排除し連邦の強化に集中する必要があった。
領土拡張を正当化する理念としてモンロー主義を再解釈した第11代大統領ジェームズ・K・ポークは、メキシコとの侵略戦争の結果、カリフォルニアに至る広大な領土を獲得し、東アジアに影響力を拡大する足がかりを得た。第25代大統領ウィリアム・マッキンリー政権期に、米国はキューバの独立戦争に介入して、キューバの保護国化、ハワイ併合、フィリピンの植民地化を行い、イギリスに代わる帝国主義国家として台頭した。
第26代大統領セオドア・ルーズベルトは、1904年に、「ルーズベルト=コロラリー(系論)」と呼ばれるモンロー主義の再解釈を表明。その中で、「文明社会の一般的な紐帯の弛緩に帰結する慢性的な悪行や怠慢は…文明国家の介入を要求する」と述べ、米国の「国際的な警察力」の行使を主張した。これによりキューバ、ベネズエラ、パナマへの介入と中国における「門戸開放」政策の追求を正当化した。
Q2 「ドンロー主義」とは?
「ドンロー主義」は、モンロー主義の「トランプ=コロラリー」として、トランプ政権が2025年11月に発表した『国家安全保障戦略』の中に登場する。今日の米国が抱える内政上の脆弱点は、国内製造業の空洞化と富の著しい偏在による社会の不安定化(※B)と、現在38兆ドルにも達する膨大な国家債務である。19世紀前半の「外国の脅威」が神聖同盟国家であったとすれば、今日の「脅威」は、それが現実的なものであるか否かに関わらず、ラテンアメリカやアジア・アフリカ諸国と経済的関係を強める中国である。ウクライナ戦争の終結を急ぐのは、対外債務の悪化につながる同戦争の継続が、対中国戦略の足かせとなるため、これを米国に有利な形で収拾する必要があるからだ。
Q3 「ドンロー主義」を掲げる米国の狙いは?
19世紀後半から20世紀初頭にかけてのモンロー主義の再解釈は、「自由経済」の拡大を正当化した。一方、「ドンロー主義」は、グローバリズムが国境間の流動性を高め、欧州文明を侵食しているとして、内外のナショナリズムに訴えて「同盟国」内の右派勢力を糾合するもの。さらにベネズエラやイランへの侵攻に見られるように、露骨な軍事力の行使によって「脱ドル化」や多極化の動きを抑え、中国やロシアに対抗しようとするものである。モンロー主義の文脈で言えばジェームス・K・ポークの拡張主義に近い。19世紀を通じて、キューバやメキシコを自国の勢力圏に置くことが米国の西半球政策にとって重要であったように、現在の米国にとっては、グリーンランドを抑え、台湾を日米の影響圏にとどめ置くことが、北極海航路と南中国海でのロシアと中国の影響を抑止するうえで重要な戦略的意味を持つ。
※A:自由主義や民族主義への動きを弾圧するために、欧州王政国家(フランス、オーストリア、ロシア、プロイセン)が結成した連盟。1820年のトロッパウ議定書により、あらゆる革命的な動きを抑えることが宣言された。
※B:「月刊イオ」2025年1月号の拙稿を参照。








