vol.3 ヒヤシンス
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筆者●李香愛先生(41、西東京朝鮮第2初中級学校 教員)
1年生の担任になって、毎日欠かさず行ってきたことがある。絵本の読み聞かせだ。放課後、児童たちが下校する前に1冊。その数は150冊を超えた。
読む本は、くじ引きで当たった児童が選ぶシステムなので、くじを引くときはみんなが手を合わせ祈っている―(私をひいて!)と。児童たちが選ぶのは、初めて見る本よりも自分が読んで面白かった本が多い。好きな本は、何回でも何十回でも読みたがるのだ。
『ちょこまかくまさんと のっそりくまさん』という絵本がある。この本は軽く20回は読んだ。対照的な二匹のくまの仲睦まじい様子が描かれている。
ある日、二人の児童がケンカを始めた。自分は「鬼滅の刃」ごっこがしたいのに、その子はお絵かきがしたいのだと。その時、助けてくれたのがこの本だった。「あなたはちょこまかくまさん、あの子はのっそりくまさん。二人は違う、それでも仲良く遊ぶにはどうすればいいかな?」
本は時に教師の言葉の何倍もの力を持つ。
冷たい北風が吹く寒い日、ある児童が持ってきたのは『ひやしんす』という教養書だった。教養書なので感動とはほど遠いのだが、読み終えたあと胸が熱くなっている自分がいた。ヒヤシンスがまさに、目の前にいる12人の1年生のようだったからだ。
花を咲かせるための栄養を球根に蓄え、土の中でゆっくりと根を下ろすヒヤシンス。霜柱が立つ冷たい朝も、雪が降る日も、寒さをじっとこらえ、春に美しい花を咲かせるヒヤシンス。小さな花一つ一つが、それぞれの芳香を放つヒヤシンス。
基礎をしっかり学び、友達と元気に遊んだ1年間は、まさに花を咲かせる栄養を蓄えた日々だった。つまずきながら、輝きながら、ピカピカの毎日を過ごしてきた児童たちも、この春には2年生になる。
それぞれの香りを放ちながら、12の小さな花が咲く日を思い浮かべると、嬉しくもあり、ちょっぴり寂しい気もする今日この頃だ。

イラスト:池貞淑