月間イオニュース vol.5
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非戦・非武装の理念を今こそ大切に
水島さつき(一般社団法人マガジン9 理事)
【マガジン9】2005年3月1日「マガジン9条」として発足以来、毎週水曜日更新のウェブマガジンを発信。憲法9条や改憲問題を中心に、憲法にかかわる「平和」「環境」「人権」「共生」「自由」「食」「平等」「非戦」をキーワードに、連載コラムやインタビュー・対談などのオリジナルコンテンツを企画・制作している。活動費は主に読者からの寄付によるインディペンデントメディア。10年5月12日「マガジン9(キュウ)」としてサイトリニューアル後は、リアルな場所で読者と執筆者が出会うイベント形式の「マガ9学校」なども実施。13年4月2日「一般社団法人マガジン9」と法人登録し、活動を続けている。
【マガジン9のHP】http://maga9.jp/
Q:全国初、世田谷区の差別禁止条例でヘイトスピーチ、なくなる?
A:区の施策を想定、国がもっと力を
文○明戸隆浩(立教大学ほか非常勤講師)
Q1:東京都世田谷区で差別をなくす条例ができたの?
A1:3月2日に成立した「世田谷区多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」だね。性別や性的指向などによる差別についてはこれまで他の自治体でも同様の条例があるけど、今回の条例では「多様性」あるいは「多文化共生」という言葉で、国籍や民族などによる差別も対象に含まれたんだ。
また内容的には、区の施策について区民が区に苦情の申立てや相談ができる制度が設けられたことが重要なポイントだ。16年に成立したヘイトスピーチ解消法では各自治体が不当な差別的言動の解消に向けて努める旨明記されたけど、解消法成立後に自治体がこうした条例を作るのは世田谷区が初めてということになる。
Q2:減らないヘイトスピーチ、どうすればなくなる?
A2:ヘイトスピーチ解消法が成立してもうすぐ2年、解消法成立後しばらくはデモなどで「死ね」「殺せ」のような露骨なヘイトスピーチを避けようとする傾向も見られたけど、残念ながら最近はそうした効果も薄れつつある。もちろん解消法自体が罰則のない理念法で、効果に限界があるというのもあるけど、それ以上に今の法律でできることが十分になされていないというのが大きいと思うんだ。たとえば内容があからさまなものについては、法務省がその都度勧告を出すようにすれば、それが蓄積して各自治体が公共施設を貸し出す際の判断材料にもなるはずなんだけど、現状ではそういうことも全然できていない。国も自治体も、理念法でもできること、理念法だからこそやるべきことを、あらためて確認すべきときだと思う。
Q3:この条例、ヘイトスピーチを取り締まることができる?
A3:この条例では最初に「差別的取扱い」、つまり入居差別や就職差別を禁止しているけど、それに続けてそうした不当な差別を「助長する」ことも禁じている。この「助長」というのは人種差別撤廃条約の訳語にも登場する言葉で、これがつまりヘイトスピーチということだね。だから当然、区民が苦情処理制度を利用してヘイトスピーチについて申し立てをすることもできることになる。ただ注意が必要なのは、苦情申し立ては基本的に「区の施策」に対して行われることが想定されているということだ。区の施策以外についての苦情や相談も受け付けないわけではないようだけど、個々のヘイトスピーチに対してこの制度がどのくらいの効果を発揮できるかは、実際に制度が動き出してみないと何とも言えないところがあるかな。