再読『在日外国人 第三版』
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この年になり、記者として育ててもらった先輩方を思い出すことが増えた。そのなかの一人が田中宏さん(一橋大学名誉教授)だ。20代のころ、無年金問題をはじめ権利関係の記事を書くたびに原稿への具体的なアドバイスをいただき、調査不足、認識不足を痛感させられつつ、その声に応援の言葉をいただいてきた。
最近、外国人を取り巻く世間の動きが急降下しているので、自身に渇を入れようと、田中先生の『在日外国人 第三版』(2013年初版/岩波新書)を読み返した。https://www.iwanami.co.jp/book/b226216.html
かつては軍国少年だったという田中さんがアジアに目を向けるようになったのは、学窓を終えてアジア文化会館に勤務してからだという。
ある日、田中さんは会館に暮らす留学生から、シンガポール出身で日本政府の国費留学生が奨学金を止められ、強制退去になったことを聞かされた。
イギリスの自治州だったシンガポールなどを合併して建国された新マレーシア政府は日本政府に対し、留学生・チュアさんの本国送還を指令、これを受けて日本政府は1963年に奨学金の打ち切りを通告。チュアさんは通学先の千葉大学からも除籍処分を受けたのだった。
決定を不服とした留学生たちは文部大臣を相手どり東京地裁に提訴。また支援者たちは千葉大学がこの決定を取り下げるよう、何度も足を運び、粘り強く交渉する。留学生や日本人支援者2000人が大学に押しかけ、大学に3日間泊りこんだという。午後3時に始まった大学の評議会が、午前1時まで開かれたとのくだりに、この問題に大学を向き合わせた気迫がひしひしと伝わってくる。
「事件に関心を寄せる日本人学生一五〇名は、評議会の決定に強い不満を示し、学長との交渉は深夜にまで及んだ。そこには、ひとりのアジア人留学生の身を案ずる日本人学生の素朴な思いが満ち、涙ながらに学長に訴える女子大学生の姿が印象的だった」(同書より)
結果、チュアさんは再び大学に通えるようになるのだが、制度は人が作るもの、そこにどのように心を入れていくのかは、私たちの行動で変えられると教えられる。
在日外国人を取り巻く制度的差別は多岐にわたるが、入管行政、社会保障、国家資格、民族教育、公務員就任権など全方位でコンパクトに解説されているのがこの本のすごいところだ。そのどれも当事者(その多くは在日朝鮮人1世と2世)が声をあげ、それを支援する人たち(外国人、日本人)が針の穴を開けていく様子が手にとるようにわかる。
鉄板のように見える制度の壁、心の壁をどうこじ開けられるかは、「運動側の知恵、手腕、覚悟」にかかっていることにも気づかされる。
戦後一貫して続いてきた「日本人ファースト政治」に対抗するためのバイブル的な一冊だと思う。
本を読みながら数々の思い出が頭に浮かんできた。
1990年代後半、田中先生が一橋大学にいらした頃だった。朝鮮学校をはじめとする外国人学校卒業生に受験資格を認めないのは唯一、国立大学だったことから、当時日本の大学に通う同胞学生たち(留学同)が大学教員を中心に署名を集めていた。
田中さんは学生たちに、「署名を集めることで、何が変わるのか」と問いかけた。ときに厳しい問いに学生たちは戸惑っていたが、田中さんは学生たちの訴えを受け、自身の足元から国立大学への働きかけを始めた。資料を調べあげ戦略、戦術を練りあげる姿は心強く、学ぶことは多かった。
年末、三重県知事が外国籍者を職員として採用しないというニュースが飛び込んできたが、県庁前の抗議の場に、田中先生が若い青年や研究者たちといらしたと人づてに聞いた。
行動する知性。行動する良心。その背中を追い続けたい。(瑛)








