映画から見る底抜けた世界/『チリの闘い』を鑑賞して
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「お前は、どの種類のアメリカ人だ?」
米国内でICE(米移民税関捜査局)の捜査官が米国籍の住民を射殺した映像、ICEによるその他数々の横暴な行為を伝えるニュースに接したとき、フィクション映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』のワンシーンが脳裏をよぎった。上記の言葉は、主人公らジャーナリストがワシントンDCに向かう道中、銃を携えた「赤いサングラスの兵士」に言われた印象的なセリフだ。2024年の映画だが米国の未来を暗示するかのようだ。ちなみに、「日本人ファースト」という言葉が蔓延る日本では、しばし見られる「おまえ日本人か?」に言い換えられる。
先日(k)さんは日刊イオで米国によるベネズエラへの内政干渉を受けてすぐに思い出したのが、米国の支援を受けて行われた南米チリのアジェンデ政権を打倒した軍部によるクーデター(1973年)だとしながら、そのようすを再現した映画『サンチャゴに雨が降る』を紹介していた。本日のブログでは、私がここ最近急いで観た映画を紹介したい。アップリンク吉祥寺で2Kレストア版が上映されていた映画『チリの闘い』だ。
『チリの闘い』はパトリシオ・グスマンが監督した全3部作のドキュメンタリー映画(1975~78年制作)。1973年、米国の支援を受けた右派と軍部の軍事クーデターによってサルバドール・アジェンデ政権が倒される最後の数ヵ月を記録したものだ。
アジェンデ政権は1970年に民主的な選挙で選ばれ、社会主義改革を行っていく。1973年の議会選挙でアジェンデが勝利するところから映画は始まる。右派と裏で糸を引く米国は選挙での政権交代に失敗する。工場などの国有化を進める政権に対して、富裕層や特権階級が反発を強める。米国国防省から資金を得たストライキなどで国と対峙する。最終的に軍事クーデターが起こるところで、映画の第2部が終わる。デモやクーデターを正面から撮影すべく暴徒とも対峙するカメラワークもさることながら、丹念な取材で民衆の暮らしと活力を記録した今作はドキュメンタリーの最高峰と言える。余談だが、特権階級と労働者の違いを足元の靴を映すことで伝える表現などもまた憎い。
今作は米国の支援を受けた軍事クーデターがいかに行われたのかを伝えるだけの映画ではない。旧体制派や右派が仕掛けるストライキなどに対して、チリの民衆たちがどのように抗ったのかということを、とりわけ第3部を丸ごと使って記録している。一般の労働者や農民が連絡会を立ち上げ全国的に組織化。工場や農場を占拠し運営していくことで、国家の社会主義革命をも超えた民衆革命へと昇華していく。映画は、歴史の主体が人民である以上、何度踏みつけられようとも「よりよい社会」を求める民衆の力は潰えないことを示している。
1971年に非同盟運動の正式加盟国となったチリで起こったクーデターは第三世界にも影響を与えることになる。その後のチリでは20年にわたる強権的な軍政が始まり、多数の人々が弾圧を受けて殺害されることになる。

米軍に拘束され、米東部ニューヨーク市の拘置所に移送されるベネズエラのマドゥロ大統領(CNNのニュース映像をキャプチャ)
映画を見ながら、いまのベネズエラに対する米国の介入が繰り返し思い出された。公然と国内への米国の介入を歓迎し、イスラエルの蛮行を支持する極右で野党指導者のマチャド。かのじょの父も実業家だ。米国が反米国家の転覆を目論む「ハイブリット戦争」には情報戦も大きな役割を果たす。「ノーベル平和賞」を受賞したかのじょを持てはやし、マドゥロ大統領のネガティブキャンペーンをする欧米・日本の大手メディアもベネズエラに対する今回の攻撃に一役買っている。
「歩み続けましょう」。第三部の労働者の言葉が頭から離れない。国家の主権と尊厳を確立することを望む人民たちによる革命は、第三世界からグローバルサウスと名を変えても、変わらず緩やかに続いている。
映画『サンチャゴに雨が降る』も今度ゆっくり鑑賞したい。(哲)








