「世間一般の感覚」に触れる(クリム展にて)
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東日本地域の在日朝鮮人美術家、愛好家たちによる作品展「クリム展」が、ギャラリーくぼた(東京・京橋)で行われている。オープン初日である12月15日(月)、私も行ってきた。

クリム展の“クリム”は、朝鮮の雅名(別の呼び方)とされる「青丘(せいきゅう)」から「丘(ク)」の字を取り、さらに若い在日朝鮮人作家がここに集い育っていってほしいとの願いで「林(リム)」をつけて命名されたもの。朝鮮語で「絵」をあらわす그림(クリム)と音が重ねられている。
在日本朝鮮文学芸術家同盟(文芸同)東京支部美術部結成後、「東京支部展」という形で作品展示を開いてきたが、1995年に「クリム展」に改称しコンセプトも刷新。東日本地域から広く作品が寄せられるようになった。2005年からは2年に1度の周期で続けられている。

会場に一歩入ると、さまざまなタッチの作品が展示されていた。今展には20~80代同胞たちが出展している。朝鮮の風景、同胞たちの生活の一場面、作者の願いや思い出、また日頃感じることを表現したもの――モチーフも多様だ。油彩、水彩、パステル、色鉛筆、アクリル、そして絵画以外にも、紙で作った小物など立体作品が展示されていた。
当たり前のことなのだが、この空間すべてが在日朝鮮人の作品で満たされている、そのことに感慨を覚えた。都会の真ん中、東京駅近くの誰もが立ち寄れる場所で、作品のキャプションには朝鮮の名前が並ぶ。
クリム展実行委員会の委員長を務める金任鎬さん(62、文芸同東京支部美術部長)は、「ウリ(私たち=在日朝鮮人)の作品は、朝鮮民主主義人民共和国の作品とも、韓国の作品とも違う。だからここにある作品を一番よく理解できるのは在日同胞たちだと思う。狭いという意味ではなくて、それがウリ文化ということ」だと話す。
日本社会の中で、自分たちの生活やアイデンティティにまつわる表現に囲まれていられる場、というものがどれほどあるだろうか。朝鮮学校の保護者、たまにコミュニティに顔を出す人、など関わり方にもグラデーションがある。現役の記者だった頃に比べて同胞と接する機会がぐっと減った私にとっては、貴重であたたかな空間だった。
ほっと一息つける場としての「ウリ文化」、あたためてくれる空間としての「ウリ文化」、そういう側面が確かにあると感じる。
金さんが同展の実行委員長を務めてちょうど20年が経つ。これを一つの節目として、2005年からの10回分の展示作品を可能な限りまとめた資料集も制作した。オールカラー(!)で、先着100名にプレゼントしている。

実は、1980~90年代の頃の展示会の記録はあまり残っていないのだという。「1世、2世の在日朝鮮人画家たちの活動があったから展示会を続けてこられた。一緒に名前を並べた時期もあったが、だんだんとお亡くなりになって、そうした方々の作品をいつまでもは展示できない。記録としてしっかり残したいという気持ちで資料集という形にした」と金さん。

掲載されている作品は500点以上! とても大切な作業だと感じた。
改めて会場内をゆっくり観てまわったあと、比較的長い時間、出展者の一人とお喋りしていた人に声をかけた。(決して盗み聞きをするつもりはなかったのだが)合間合間に聞こえてくる感じから、来場者は日本の方で、こうした場に不慣れな雰囲気を受け取ったからである。どんな感想を抱いたか興味があった。
はじめはしきりに「感想? 自分そういうの全然分からないです…」「本当にそういうの苦手なので…」とかわされてしまったが、「どんなことでもいいので、感じたこととか、ただ頭に浮かんだ言葉とか、よければ教えてもらえませんか」と少しだけ粘ってみたところ、ぽつぽつと話してくれた。
その方は、職場の同僚である出展者に誘われて足を運んだという。シンプルな画材でここまで深い表現ができるんだなと興味深かったと、その出展者の作品に限ってコメントしたので、会場全体を見ての感想はどうですかと改めて聞いた。
すると私の背後にあった作品を指しながら、「ああいう服装?とか見たことないので、う~ん…」と言葉を選んでいる様子。見ると、チマチョゴリを着た生徒たちが合唱している姿、そしてチマチョゴリを着て正面を向く教員の姿を描いた作品がかかっていた。
その人の感想にこっちが勝手に名前を付けてはいけないので、「全然、例えばですけど、違和感を抱いたということですか?」と合いの手を出す。その言葉を受けて返ってきたのは 「う~ん…言ってもいいのかな? 分からないですけど…北朝鮮とか、そういう知らない、分からないことを描いているのかなと思った」という言葉だった。
そうか…。本当にまったく知らない人からするとそういう感想になってしまうのだな。もう少し詳しく聞くと、「ここに来たのもその人(同僚)に誘ってもらったからで、在日のこともよく分からないし、こういう作品があることも知らなかった」という。
ああ、すごく「一般的な感覚」だな(なんだろうな)と思った。私はこれまでイオの取材圏だったり、朝鮮学校についてある程度の知識がある人とばかり話してきたが、それは限られた範囲の中でのことだったのだ。圧倒的大多数の感覚は「分からない」、そしてその分からないには微妙に「こわさ」や「怪しさ」という色が混じっているのだろう。
ここまで考えながら、その上で「あの服はチマチョゴリって言うんですけど、そっちの絵は日本にある朝鮮学校の風景を描いたもので、その隣の絵は、学校の先生が日常的に着ている服なんです。私は朝鮮学校に通っていたので、ああいう絵を見るとむしろ安心するんです」と言うと、その方は初めて「へえ」と意外な、少し驚いたような顔で頷いてくれた。
その方は、終了後に出展者の方とご飯に行ったようだ。最初は分からなくてもいい。何かのきっかけで、いろんな角度から少しずつ在日朝鮮人について知って、無根拠にぼんやりと抱いているこわさや違和感がいつの間にか薄れていたらいいなと思った。そしてそうした関わり合いやきっかけがもっと増えたらいい。
クリム展は12月21日(日)まで開催されている。詳細は以下より。(理)
日時:2025年12月15日(月)~21(日)(最終日16:00まで)
会場:ギャラリーくぼた本館2階
東京メトロ 銀座線「京橋駅」 [6]出口徒歩1分
都営地下鉄 浅草線「宝町駅 」[A5]出口徒歩1分
JR「東京駅」[八重洲南口]徒歩10分
開館:10:00~19:00(最終日16:00まで)
観覧料:入場無料
主催:クリム展実行委員会
後援:在日本朝鮮文学芸術家同盟中央美術部
案内ページ:https://munedong.com/news-2025-12-15/








