そっと背中押す「言葉」に触れる/映画『雨花蓮歌』を鑑賞
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キムチや豚足が食卓に並び、家族親族がおいしそうに食べ、談笑する。やがて祭祀挨拶の場面へと移っていく——映画『雨花蓮歌』はこうした日常の風景から幕を開ける。
監督を務めるのは在日コリアン3世の朴正一さん。日系ブラジル人学校で撮影した短編映画『ムイト・プラゼール』(本編30分+インタビュー30分、2022年)に続く作品。今作では自身のルーツをテーマに据えた。月刊イオ12月号の連載「話題の人」では監督のインタビューを取り上げている。
今作は在日コリアンの姉妹を中心に織りなされる。家族は普段、在日コリアンのコミュニティとはほとんど関わりがない。主人公は大学生の春美(山﨑悠稀)。かのじょの姉・麗子(齊藤由衣)は日本人との結婚を考え母や周囲と対立する。学生生活を何気なく送る春美も麗子と同じく、自身のルーツに悩み、周囲の外国人に対する偏見に表情を曇らせる。麗子と春美の葛藤を通して、日本社会の現状を考えざるを得なくなる。2人が出した「答え」は何か。観る者の背中をそっと押してくれるように「選択肢」を与えてくれる。
前作同様、監督はとにかく当事者に話を聞いたという。今作の脚本は監督自身の体験と結婚した在日コリアンたちへのインタビューを基に書き上げた。そうして生み出されたセリフは、すっと胸に入ってくる。
筆者のインタビューで「在日コリアンを説明する話にしたくなかった」と話した朴さん。「一人の青春映画」として描くことで、在日コリアン以外にも響くより普遍的な物語になった。一方で、「『汚い血』と罵られるなど辛い思いをした人たちの思いを多少は代弁すべきではないか」と考えた朴さんは、コミカルなおばさんに「重い」メッセージを託したという。
映画制作後、日本の政治と社会で排外的な主張が目立つようになった。「まさかこんなことになると思ってなかった」と率直に語る朴さん。それでも今作はこれでよかったと思っている。
「やられたらやり返すように、映画で自分たちの主張を訴えて相手の矛盾を突くことはできる。それでも、自分たち外国人が日本人とお付き合いしていて、こんな楽しくて幸せなんだということを攻撃してくる人に見せつけることも、大きなカウンターになるのではないか」

舞台挨拶のようす。右から朴正一さん、山﨑悠稀さん、齊藤由衣さん
K’s cinema(東京都新宿区)で行われた舞台挨拶で、主演の山﨑さんは「(映画製作中に)『私はこういう風に生きてきた』という朴監督の言葉一つひとつに背中を押された」と話した。
多様な在日コリアンの生が織りなすこの物語は、ルーツに悩む人はもとより、より多くの人の背中をそっと押してくれる作品だ。10月25日より各地のミニシアターなどで公開中。(哲)
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『雨花蓮歌』








