在日発の焼肉
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老舗感ただよう総本店のメニュー表
来週17日に刊行されるイオ12月号の特集では、在日同胞たちが1世の時代から築いてきた「食文化」に迫った。筆者は、東京の老舗人気焼肉店として有名な正泰苑を運営する株式会社正泰苑の金日秀さん(57、代表取締役)を取材したのだが、「美味しい、楽しい」の究極を追求する正泰苑のはじまりが気になり、後日、焼肉好きの友人を連れて、荒川・町屋の総本店を訪ねた。
お店へと向かう道中、某グルメサイトで口コミをチェック。「元気がなくなったら行くぞ!」など、過去に美味しさだけでない満足感を味わった人々の投稿に、少し疲れを感じていた筆者の足取りも軽くなった。それに口コミがこれほど好評なのを目にしたのも久しぶりだったので期待値は自然とあがっていた。

荒川・町屋の正泰苑総本店
この日は平日中日。開店時間の17時に予約がとれ、その時間に合わせて店に到着すると既にオープン待ちの客が2組待っていた。
オープンと同時に店内へ。すると、平日なのが嘘みたいに、オープンまもなくして客が続く。スタッフに聞いたところ、今日も閉店時間まで予約で満席なのだという。
金さんから聞いていたおすすめメニューと、メニュー表で気になった料理をいくつか注文。しばらくして料理が運ばれてきた。
ここからは、筆者と友人が印象に残った料理レビューをお届けする。

キラキラしていて感動したセンマイ刺し
まずは「センマイ刺し」。一目見て、そのキラキラ具合に驚いた。口の中にいれると、コリコリで鮮度抜群、まさに美味でさらに食欲がそそられた。
つづいて「二代目レアステーキ」。軽くレアステーキしたもも肉を冷やして薄切りにし、大根おろしをのせたユッケ味の前菜で、名物メニューの1つだ。黄身をくずして大根おろしやニンニク、葱を絡めたものとお肉を一緒に食べるのだが、さっぱりとしたそれと肉、甘ダレが絶妙にマッチして口のなかでとろける。

二代目レアステーキ
横の席に座った2人組。このレアステーキを頬張りながら、いったん沈黙した後に目が大きくなり、スッと肩が上がる。そして「幸せ~」「最高~!」と感動の声が続く。筆者も同様で、客から思わずそんな言葉がこぼれるマスト料理だった。
次に焼いたのは、「塩上カルビ」。こちらも正泰苑の顔と言える名物メニューで、店の名を広く知らせた「張本人」だ。

店の看板メニュー・塩上カルビ
自家製ブレンドで作り上げたオリジナルわさびを片面にたっぷりぬって醤油をつけて食べるのだが、何よりも皿にのっている肉の質の良さにため息が漏れた。綺麗なサシがたくさん入っていて食べると脂が甘い。素人でもわかるくらいだ。そこにピリッと辛いわさびが良いアクセントになり肉そのものの旨味をより感じられる。平日なのに人の入りが絶えない理由が手に取るようにわかった。
他にも、生上タンネギ(塩)や上ロース、おすすめの塩ギャラをはじめ、「デザートで上書きするのは勿体ない。余韻を味わいたい」と友人が絶賛していたカルビクッパなど一つひとつの料理の満足度が高く、同社がめざす「究極」とはこういうものかと驚かされた。

生上タンネギ(塩)

やみつきになる塩ギャラ

めちゃくちゃ新鮮だった炙りレバー

さらっとしたスープが美味のスンドゥブチゲ
取材の帰り道、店から最寄り駅までの路面通りは人気がなく空いていた。なのにさっきまでいた店内はたくさんの人でにぎわっていて、この対照的な光景におもわず笑ってしまった。
金さんがインタビューの際に言っていた言葉。
「流行ればいい、ウケればいい時代。焼肉の奥底にある食文化や調理技術、朝鮮料理に対する思いはあまり必要とされていない」。それでもこんなに人が集う在日発の焼肉は、言語化こそ難しいが、確実に他とは比べ物にならない魅力がある。そんなことを、正泰苑の「味」が、そこで過ごした「楽しい」時間が教えてくれた気がする。(賢)








