「李香代さんの裁判を支援する会」が発足
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日本各地から約90人が李さんを激励に訪れた
●有志たちが呼びかけ
「李香代さんの裁判を支える集い」(主催=李香代さんの裁判を支援する会)が4月26日に大阪市内で行われ、ヘイトスピーチをなくすために立ちあがった李さんを支援しようと東京、愛知、京都、滋賀、大阪から約90人が応援にかけつけた。
李さんは、4人の子どもを持つ在日コリアン3世。李さんはネット上で大阪府泉南市の添田詩織市議会議員から差別的言動を受けたとして2024年5月20日、添田市議に550万円の損害賠償とインターネット上での投稿の削除を求めて大阪地裁に提訴した。
提訴に至ったのは、李さんが取締役を務めるイベント会社・トライハードジャパン(THJ、大阪市)が泉南市の業務委託契約を担うことになったことを添田議員が問題視し、「いわくつきの中国系企業」などと差別的な言動を繰り返したのが発端だ。THJは24年2月2日に添田議員を提訴。しかし、提訴の日から添田議員の李さんへの攻撃はさらにエスカレートした。
添田議員は大阪府に朝鮮学校への補助金復活を求める「火曜日行動」で子どもの学ぶ権利の保障を呼びかける李さんの写真を4枚並べて転載し、李さんが日本社会に害悪をもたらすような人物であるかのような印象をSNSで拡散。THJ社による提訴において自らの立場を有利なものにしようとしている。

大村和子さん
支援する会の発足を呼びかけた大村和子さん(北大阪ハッキョを支える会代表)は集会冒頭、「補助金を求める裁判闘争で李さんがオモニ会役員として闘っておられたとき、ご一緒して力をいただいた。その李さんが『火曜日行動』の写真をさらされ、誹謗中傷されたことに憤りを感じた。また、裁判で主張がエスカレートする被告を見ながら、在日朝鮮人であり、女性であることを誹謗中傷するヘイトクライムだと思った。これはヘイトを許している日本社会の問題。裁判で勝利しなければと支援する会を立ちあげた」と語った。反ヘイトスピーチ裁判を闘った李信恵さん、大阪朝鮮中高級学校(当時)オモニ会元会長の高己蓮さんらも会の発足に尽力した。
●香代さんの思い
弁護団を代表して発言した田中俊弁護団長は、「添田市議会議員のフォロワーは一昨年で7万人を超えた」として、「差別を受けた側がどれだけ恐ろしいかを考えてみてほしい。添田市議の投稿は、名誉権、プライバシー権、肖像権といった憲法上の権利を侵害している。これらの権利は人格的生存に不可欠な権利だ」と指摘した。

田中俊弁護団長
さらに、「政治家によって真実が何かわからないフェイク発言が蔓延している。李さんの裁判は差別に関する裁判というのが明らかだ。朝鮮学校の保護者で組織されるオモニ会の方々が、無償化適用と補助金再開を求めて運動をすることの何が悪いのか。添田市議は、朝鮮学校が日本国民の利益に反するかもしれない、外国籍者が泉南市の公金に関わる不正をしているかのような印象操作をしている」と市議の言動の悪質性を強調しながら、「旧植民地出身者への差別的偏見が根強くあることを、この裁判で何とかあぶりだしたい」と今後の意気込みを語った。
また、法廷を非公開にしている裁判所に対し、この裁判を「ぜひ公開してほしい」と訴えた。
続いて李香代さんが裁判に挑んだ思いを伝えた。
…私は、普通のおばさん、私人です。
今日は、朝鮮学校に子どもを通わせたオモニたちが多く参加されていると思いますが、子どもを朝鮮学校に何年も通わせるのは本当に大変なことです。
次女が高校のときに高校無償化裁判が始まり、末っ子が高校を卒業するまでに裁判の結果が出ました。保護者として当然、子どもたちの学ぶ権利を獲得することを訴えるため、支援者の方々と色んな行動を起こしました。大変でしたが、子育てをする喜び、民族を学べる機会を味わえ、その何十倍も幸せな24年を朝鮮学校の保護者として過ごしました。
攻撃を受け始め、私たち家族は泣きました。
そして、怒りに震えて恐れを感じました。
心も体も震え、悩みつづけました。
やがて家族から笑顔が消えました。
(添田市議の攻撃は)私個人だけではなく、私が取締役をつとめる法人に対しても向けられたもので、法人の信用のためにも、ともに働く社員たちにも、朝鮮学校の高校無償化問題が何なのかをちゃんとわかってもらわないと、私がこの会社で勤めあげることはできないと思いました。会社の取引先やお客様の安心安全を守るため、私が危険人物なのかどうかを証明しなければと思い、私は取締役として声をあげ、正しいことを訴える責任があると思いました。
この事件があったときの、家族の会話です。
社会人になったばかりの末っ子は、「なんでオンマは訴えないの? 黙っているのはおかしいよ」
息子は「オンマはなんも悪いことしていない」、
次女は、「この人は知り合い? 市議がこんなことしていいの?」と言いました。
添田議員がSNSにあげた4枚の写真に対して、長女はインスタで友人たちに、「助けてください!」と声をあげました。次女は添田議員の投稿のリツイートの数が多いこと、フォロワー数の多さにも驚いていました。
子どもたちの姿を見て、私は震えて怖くて、ごはんも喉が通りませんでした。
子どもたちを考えると、夜も寝られない。家族が苦しみだしたんです。
ちょうどその頃は、孫をどの小学校に通わせるかという、大事な進路を決める時期でした。本当に悔しいのですが、朝鮮学校に行ったら、こういうことにつながるんじゃないかという考えが頭によぎったこともあり、娘は孫を日本学校に行かせることにしました。
SNS時代における発信の責任が、(政治家に)あると思います。今回のことは、私だけに起こりうる話ではない。ここに座っている私と同じような朝鮮学校のオモニたちが、私と同じようなことを理由に攻撃されてもいいという空気が広がれば、被害もさらに広がっていくし、私の足や、会社の足を引っ張るようなことが繰り返されると思いました。
私は、子どもに背中を押されながらも、会社の取締役として、このような裁判を起こしていいものなのかを悩みました。
会社の同僚たちは、「李さんが裁判を通じてさらに傷つかないかだけが心配。それ以外は全力で応援する」と言ってくれました。私としては、会社の理念、スタッフ、仲間の存在が困難に立ち向かううえでの大きな支えとなり勇気や希望の源になっています。…(以上発言から)
●無償化裁判の延長戦

中村一成さん
第2部で講演をしたジャーナリストの中村一成さんは、「ヘイトスピーチ裁判を担っている人には一瞬一瞬に揺れがある。法廷でヘイトを浴び、執拗な攻撃と暴力を受け、これに対処できないと考え、自身の存在自体が問題じゃないかと揺れる。李さんも、自分がいることで会社に迷惑をかけているのではと悩んだ時期があった。ある種の『帰責の誤り』だが、こんなことがまかり通っていたら人間は生きられない。この裁判に勝つしかない」と言葉に力を込めた。
また、李さんの裁判は、「差別については黙らない。声をあげて闘うという無償化世代がオンマを後押ししたが、無償化裁判で国側がふりまいた民族教育権の否定の言説にどう『応戦』していくのかが問われている」と指摘。2003年の大学受験資格問題に象徴されるように外国人学校のなかで朝鮮学校だけを差別するという「『例外化』が進んでいる」として、2010年代からの高校無償化や幼保の無償化からの排除、さいたま市に至っては朝鮮学校へのマスク配布を否定し、最後まで差別と認めなかったことは、「命にかかわるところまで差別が制度化されていることを意味する」と底が抜けた現状を伝えながら、「メディアのタガもはずれている。自治体の劣化は司法判断がその根拠になっており、朝鮮学校民族教育否定が進んでいる。ともに生きることを完全に否定している」と官製ヘイトの弊害を喝破した。

高己蓮さん
この裁判は「無償化裁判の延長戦」だと定義づけた中村さん。裁判の課題はヘイトスピーチ解消法2条の対象を広げ、「ヘイトスピーチ=人格権侵害」をより確かなものにすることであり、自治体議員による差別扇動を認定させ、朝鮮学校への「官製ヘイト」に抗する新たな回路を切り開くことだとして、「過去は変えられないが、その意味づけは変えられる。何をもって変えられるかはここに集った私、私たちにかかっている」と呼びかけた。
最後に主催者の一人、高己蓮さんは、「ヒャンデオンニは子どもたちの民族教育権を獲得するためにがんばってきた同志です。これからもみんなに支えてほしい」と参加者に強く訴えた。次回弁論は6月23日10時から。7月10日は公開法廷で証人尋問が行われる予定だ。(瑛)
李さんの裁判については、月刊イオ5月号に中村一成さんの詳細な記事が載っています。
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