越境的な運動に
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裴奉奇さんを知っていますか―。
1914年、忠清南道生まれ。6歳の頃から奉公に出され、結婚生活も破綻した。43年、日本軍「慰安婦」という名の性奴隷として朝鮮半島から沖縄に連行され、日本の植民地支配に終止符が打たれた祖国解放後も米国による占領下の沖縄であらゆる辛酸をなめた。
家父長制、近現代の朝鮮半島、日本、米国を取り巻く暴力にさらされた裴さん。その後、金賢玉さん(昨年7月逝去)をはじめとする総聯活動家らと出会い、朝鮮新報の誌面上で日本軍性奴隷制の被害を初めて告発した(1977年の4月23日)。
歴史的なサバイバーである裴さんに照らされるべき光が照らされていないのではないかー。サバイバーを記憶し、日本軍性奴隷制を現在進行形で続く問題として捉え、歴史否定に抗う。このような目的を掲げて在日朝鮮人人権協会 性差別撤廃部会が2015年から始めたのが「4.23アクション」だった。これまでデモやシンポジウム、映画祭など多彩なイベントを毎年続けてきた。
10周年を迎えた今年のアクションが先日、新宿区内で行われた。

「4.23アクション」10年の軌跡を振り返り今後について考えるフォーラム(4月19日)
4月19日のフォーラムでは、あらゆる人がアクセスするためのオンライン配信のほかに聴覚障害のある人などに配慮しUDトークも採用された。また、その後の打ち上げ会もそうだが、属性に基づくいかなる差別や暴力にも反対するための「だれいきグラウンドルール」が共有された。だれもがいきいきと生きられる社会に―。その理念が至る所にみられた。
さらに、23日には、初となる国際連帯アクションとして東京とバンクーバーでデモが行われた。

23日、JR新宿駅東口駅前広場で行われたスタンディング・デモのようす
バンクーバーでのアクションを主催したのは、日系ディアスポラ団体の「Nikkei Vancouver for Justice (NVJ)」。呼びかけ人の落合ベック フェイファンさん(16、NVJ発起人)は、昨年の4.23アクションをオンラインで見て、性差別撤廃部会の活動を知った。

23日の新宿でのデモもオンラインで配信された
落合さんは、日系ブラジル人3世の父と中国人の母の下、日本で生まれ、3年前に家族で移住した。日本での被差別経験から13歳の頃には、社会運動に参加した。これまでパレスチナ連帯、関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺や南京大虐殺に関する集会も行ってきた。

同日、カナダ・バンクーバーの日本大使館前で連帯アクションが行われた(提供=NVJ)
落合さんは、日本のみならず海外から日本政府に日本軍性奴隷制に対する法的賠償や謝罪を求め、歴史修正主義に対する批判・抗議を行う意義を強調する。「日本軍性奴隷制の問題は日本だけの問題ではない。朝鮮人、中国人、琉球人、フィリピン人など、さまざまな被害者が存在する中で、やはり帝国主義の構造そのものが問題であり、歴史修正主義が国境を超えて広がっているという意味で世界的な問題だ」。
帝国主義がそもそもグローバルである以上、植民地主義に対する抵抗も越境的にならざるをえない。在日朝鮮人運動には世界の運動と共振し、植民地主義や帝国主義を穿つ力がある。その意味において、性差別撤廃部会の地道な活動によって今回、国際連帯アクションを開催できた意義は大きい。
連続テレビ小説『虎に翼』の主人公・寅子の言葉が頭の中をよぎる。
おかしいと声を上げた人の声は決して消えない。その声がいつか誰かの力になる日がきっと来る(エピソード68、第14週「女房百日 馬二十日?」)
ジェンダーの視点から朝鮮民族の解放を目指す。性差別部会が投じた小さな一石は波紋となり、大きく広がった。
植民地宗主国であった日本の地で、朝鮮学校差別や歴史否定に抗い、声を上げることは容易ではない。それでも、多彩な方法で日本軍性奴隷制の歴史を記憶し、歴史否定に抗い、声を上げることでその地平を広げた性差別撤廃部会の活動は、在日朝鮮人運動において新たな可能性を示しているのではないか。
今回の4.23アクションの詳報は本誌6月号に譲る。(哲)