川崎ネットヘイト裁判が結審、10月12日に判決
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多文化交流施設「川崎市ふれあい館」(神奈川県川崎市)の館長を務める在日朝鮮人女性・崔江以子さん(50)がインターネット上で4年以上にわたって、「さっさと祖国へ帰れ」などと匿名の差別投稿を繰り返され、精神的苦痛を受けたとして2021年11月18日、305万円の損害賠償を求めて茨城県在住の40代男性を訴えた訴訟の第7回口頭弁論が7月20日、横浜地裁川崎支部で開かれ、同日結審した。判決言い渡しは10月12日。
訴状によると、被告は2016年6月、自身が運営するブログで崔さんに対して、「日本国に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ」などと書き込んだ。崔さんの請求によって投稿が削除された後も、20年10月まで多数にわたって「差別の当たり屋」「被害者ビジネス」などの投稿を繰り返した。崔さん側は「祖国へ帰れ」などの発言がヘイトスピーチ解消法が定める「不当な差別的言動」にあたり、ブログ投稿削除後の書き込みは名誉毀損にあたるとして、男性を訴えた。一方の被告側は、「(祖国へ帰れという)投稿は崔さんに向けたものではない」「投稿内容は当時の崔さんの活動に対する批判であり、正当なものである」などと主張した。
この日の口頭弁論では、原告側代理人が意見陳述を行った。
神原元弁護士は、「『祖国へ帰れ』という言動こそ本邦外出身者を苦しめてきたヘイトスピーチの典型だ。差別を受けない権利、地域社会から排除されることのない権利を正面から認めてほしい」と裁判官に訴えた。
裁判後の記者会見で崔さんは、「ほっとしている」と結審に際しての心情を吐露した。続けて、「7年前、被告から初めての投稿があり、そこからずっと攻撃され続けてきた。怖かったし、つらかった。『祖国へ帰れ』と言われない社会を実現できるような判決が得られたらいい」と希望を語った。
この日、本件訴訟にも影響を及ぼす可能性のある重要な判決が6月に2つ下されたことについて原告側から言及があった。
ひとつは部落差別関係の訴訟。全国の被差別部落の地名をまとめた書籍の出版を計画し、掲載情報をウェブサイトに公開した川崎市の出版社に対して部落解放同盟などが出版の禁止などを求めていた裁判で2審の東京高裁は6月28日、「差別を受けない権利の侵害にあたる」と判断して1審よりも広い範囲で原告側の訴えを認め、書籍やサイト上で地名などの情報を一切公表しないよう命じた。
もうひとつは、在日朝鮮人2世の父を持つフォトジャーナリストの安田菜津紀さんが、SNSの差別的な書き込みにより人格権を侵害されたなどとして、投稿者に195万円の損害賠償を求めた訴訟。投稿者に33万円の賠償を命じた1審の東京地裁判決(6月19日)は、被告の書き込みが、本邦外出身者がそのことを理由に差別されない権利、地域社会から排除されない権利を侵害する不法行為であるか否かについて、「不法行為は成立しない」としながらも、「権利や法律上保護された利益を認める余地がある」と指摘した。
師岡康子弁護士は記者会見で、「『日本国に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ』という投稿がヘイトスピーチ解消法が定める不法な差別的言動にあてはまることは明白だ。しかし解消法には禁止条項がないため、その言動が違法かどうかを裁判で争わないといけない。原告側が求めているのは、この投稿は解消法2条が定義するヘイトスピーチにあたるので違法だと認めてほしいということだ」とのべた。