ネット投稿300件の6割超に違法性認定、削除要請もー崔江以子さん、法務局に人権侵犯被害申告
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神奈川県川崎市在住の在日朝鮮人3世女性・崔江以子さん(49、川崎市ふれあい館館長)が、自身に向けられたインターネット上の300件の投稿についてヘイトスピーチに当たるとして法務局に人権侵犯被害の申告をしたところ、投稿全体の64%にあたる192件が違法な人権侵害と認定された。崔さんと代理人の師岡康子弁護士が9月8日、市内で記者会見し、明らかにした。
崔さんは法務局への申告に先立って、ネット上の投稿約340件について、2020年6月までに川崎市に対して「差別のない人権尊重のまちづくり条例」(2019年12月制定)に基づいて削除要請を申し立てていた。しかし、市が専門家でつくる市差別防止対策等審査会に諮問したのはわずか8件にとどまった。申し立てた削除要請の多くが認められなかったことについて、師岡弁護士は「市条例の運用を改善してほしい」と訴えた。
同条例の第17条は、ヘイトスピーチ解消法(2016年施行)第2条が定める「不当な差別的言動」(ヘイトスピーチ)があった場合、市が認定したものについては専門家でつくる市差別防止対策等審査会に意見を聞いて、公表して削除手続きをすると定めている。また第8条では、市がインターネットを利用した人権侵害による被害の救済をはかるため、関係機関と連携し相談を実施、必要な支援を行うと定められている。
以前からインターネット上で差別主義者たちのヘイトスピーチの被害に遭ってきた崔さんは20年5月から6月にかけて川崎市に対して、条例に基づいてインターネット上の人権侵害の被害について救済してほしいと求めた。しかし、市側は崔さんが削除を要請した約340件の投稿のうち8件しか審査会に諮問・認定せず。審査は11月に終了となった。
この結果を受けて崔さん側は12月、横浜地方法務局に対して人権侵犯被害申告を行い、川崎市に削除要請していた投稿のうち、市側の要請ですでに削除されていた分や崔さん側が取り下げた分を除いた300件(ブログ・掲示板38件、ツイート262件)の削除を求めた。
法務局の認定は今年6月まで数回に分けて行われた。その結果、ブログ・掲示板38件のうち36件が、ツイート262件のうち156件が民法上の違法性が認定された。法務局はこれらの投稿について、プロバイダに削除要請を行った。違法認定されたブログ・掲示板の投稿36件のうち28件が9月6日時点で削除されており、ツイート156件のうち60件が8月17日時点で削除されている。
師岡弁護士は、法務局の対応について「ここまで大量に違法認定してくれたのは大きな成果」だと評価した。法務局側から、違法であり、かつ差別的言動であると説明を受けた投稿の実例としては、「こんなヤツラがいるから日本は悪い社会になった。不法に滞在して日本に寄生している外国人」「朝鮮人も韓国人も中国人も全員強制送還すべき!」などがある(現在は削除済み)。上記の投稿について、川崎市は対象外としたが、法務局では違法かつヘイトスピーチだと認めた。
師岡弁護士によると、法務局は民法上の不法行為とまでは認定できないもののヘイトスピーチ解消法の定める「不当な差別的言動」にあたると判断した投稿については、プロバイダに対して削除要請という形ではなく、「不当な差別的言動」にあたるという情報提供の形で通知したという。
師岡弁護士は、「川崎市の条例の運用は被害者の救済として不十分」と指摘。9月7日には、崔さんとともに川崎市の担当者と面会、17条の運用を柔軟にして、ネットモニタリングの制度を活用して迅速な削除をするような運用にしてほしいと求めた。法務局の人権侵犯被害申告はすべて被害者個人が調査し、申告しなければ手続が始まらないため被害者の負担が大きいが、地方公共団体によるネットモニタリングは当該地方公共団体の市民等に関連する人権侵害について地方公共団体自らが調査し、削除申請できることから、被害者市民の負担が少なく、公的機関が差別をなくし市民を守るという立場に立って動くこと自体が被害者にとって大きなことだとのべた。
崔さんは会見で、「法務局は被害をないことにしないで、真摯に、誠実に対応してくれた。その対応に救われる思いだった。法務局の今回の前向きな判断によって、今後の川崎市の条例の運用、被害救済のための歩みが強くなってほしい」と感想をのべた。(相)