【幼保無償化】形骸化した対応を痛烈に批判/西東京・埼玉の保護者らが担当府省に要請へ
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“なにが差別なのかわかっていない”
東京・西東京要請団
幼保無償化の対象外となった施設への支援を目的とした調査事業が大詰めを迎えるなか、公正な審査を求めるための要請活動が各地で続いている。6月25日には東京・西東京地域にある朝鮮幼稚園の保護者らが中心となり、内閣府、文部科学省、厚生労働省への要請活動を行った。
各省庁の担当職員に、各種学校への幼児教育・保育無償化適用を求める約1万6000筆の署名と要望書が提出された。
紹介議員として同席した立憲民主党の大河原まさ子衆議院議員は、「すべての子どもたちに差別をしないというのは大きな課題であるはず。同じ消費税を払わせながら、非常に不平等で不誠実な対応だ」と指摘した。
続いて、学園関係者、保護者たちも発言。
「各省庁の方々はたくさんの要望を何度も受け取っていると思うが、要望や皆の声を聞くことに慣れっこにならないでほしい。何万筆もの署名に込められた気持ちや、保護者・子どもたちの状況に思いをよせて署名を受け取っていただきたい。制度的な落ち度があるのであれば各省庁で検討し、正していただきたい」(東京朝鮮学園・李英順さん)
自身も東京朝鮮第6初級学校の保護者であり、「幼保無償化を求める朝鮮幼稚園保護者連絡会」代表の宋恵淑さんは、朝鮮幼稚園の先生たちが臨時休校中にもお遊戯の動画を撮り、各家庭に共有した取り組みについて挙げ、「日本の幼稚園や幼児教育施設とシェアし、協力し合えることが多くある」としながら多種多様な教育、貴重な学びの場への尊重を訴えた。
他にも保護者たちは「いつまでこれを続けなければいけないのでしょうか? いつまで待たなくてはいけないのでしょうか?」と、進展のない政策への憤りをあらわにした。
「西東京朝鮮第1初中級学校保護者連絡会」の代表を務める黄琴実さんは、子育てをしている日本の友人に相談した際、「日本の幼稚園じゃないから仕方ないよ」と言われたことをのべ、長い間このような闘いをしてきても、人々が「なにが差別なのかわかっていない」ことに悔しさをにじませた。
黄さんは「今日ここにいる保護者たちは、みな3人以上子どもを産んで、日本の少子化にも貢献している。朝からお弁当を作り、自転車を漕いで子どもたちの送り迎えをして一生懸命子どもたちを育てている。除外されている理由がひとつもわからない。担当者の方々は仕事としてではなく、一人の人間として考えてほしい」と切なる思いをぶつけた。
「西東京朝鮮第2初中級学校保護者連絡会」代表の李春香さんは、「家で待っている子どもたちに、『幼保無償化のことで国会に行ってきたよ』と言わなきゃいけないのが、本当に心苦しい」と声を震わせた。「私たちも動いています。文科省の方々も、止まってはいけません。少しでも動いてください」と語気を強めた。
東京朝鮮学園の金順彦理事長は、「戦後の弾圧以降、民族教育に対する差別が途切れたことはない。今は義務教育や高校・大学生ではなく、生まれて間もない命にまでそのような差別が始まっている、大変恐ろしい時代に入ってしまった」と改めて朝鮮学校への差別の根深さを語った。
会場に駆けつけた日本の議員・有志たちも発言した。国立市議会の上村和子議員は、「『すべての子どもに』と言いながら、国はどこまで調査をしたのか」と疑問をぶつけた。「国が調査をしなくても、市町村の確認をとったところは国も幼保無償化の対象にしていただきたい。これは法律に沿っているので、むしろこれに沿っていないのは違法行為だとすら思う」「調査の対象に受かったところと外れたところの差がどこにあるのかというところまでしっかり説明責任を果たしていただきたい」と厳しく指摘した。
「10年間続いてきた差別がどういう差別なのか、おそらく日本の人はピンとこない。わかっていない人があまりに多い」と話すのは、市民団体「ハムケ・共に」の猪俣京子さん。猪俣さんは、「努力しなければ、何が差別で、なぜこのようなことが続くかを知ることができない。日本はこのままではいけない」と差別の自覚がない日本社会を危惧し、「あなたたちには調べる力、直す力があり、そういう立場にいる」と強く訴えた。
「朝鮮学校『無償化』排除に反対する連絡会」の長谷川和男代表は、「一生懸命学ぼうとしている子どもの権利が国籍で変わるということ自体が教育への冒涜。現場を見れば『教育にお金が充当されるかわからない』という馬鹿げた主張は出ない」とし、田中宏・同代表も「日本は今、国際人権のレベルで恐ろしく世界からひんしゅくをかっている。そのうえ、国際的な人権基準に照らし合わせて是正するための対応もすべてサボっている」と喝破した。
要請団の意見を受けた担当職員らは終始下を向いており、「署名、要望書、意見を持ち帰り、共有する」との事務的な一言で締めた。
その対応を受け、上村議員は「地方の小さな議員ですが、職員が市民に対してこのような答え方をすることはない。基本的に『持ち帰って、だれと相談して、その結果をお知らせします』と、もらったものは返すという町の役所的なスタンスだ。『共有する』というのは、ここに来た皆に『何をする』ということなのか。国の方々と話して思ったのは、役所言葉を使いすぎている。内閣府、厚労省、文科省が来ているが、この件の窓口はどこなのかすら今わからない状態。少なくとも共有した結果が何だったかということを返すということが役人たちに求められているのではないか。国会で聞かれないと答えないのか?」と追及した。(蘭)
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“制度が差別を生んではいけない”
埼玉要請団
翌26日、埼玉朝鮮幼稚園の関係者と保護者、日本の有志らが内閣府、文部科学省、厚生労働省へ要請を行った。はじめに、「幼保無償化を求める埼玉朝鮮幼稚園保護者連絡会」の安貞姫代表が要望書を朗読した。
要望書では「幼保施設は、認可・無認可を問わずさまざまな設置形態を取って教育・保育を行っている中で、なぜ各種学校の外国人学校幼保施設だけが無償化対象から除外されるのか、不可解」だとしながら、▼各種学校も無償化対象と認め朝鮮学校幼稚部の全ての園児たちの保育料を無償化すること、▼各種学校の幼児教育・保育施設を幼稚園類似施設などの新たな支援の対象として認めること—を求めた。
朗読後、要望書のほか、埼玉で集められた5110筆の署名が関連府省の職員らに手渡された。
続いて質疑応答に入った。要望書に名を連ねた「外国人学校・民族学校の制度的保障を実現するネットワーク埼玉」の斎藤紀代美代表は、「各種学校が幼保無償化の対象にならない理由として『多種多様な教育』を挙げているが、なぜそれがだめなのか?」と問うた。
文科省の職員は、「あくまでも当初の対象の原則は、教育の質が制度的に担保されている施設ということで、そうじゃないところも例外的に…認可外施設にも入りたくても入れない子どもがいるからということで整備されたということで、…多種多様だからダメだということではないという…と理解をしております」と回答。
紋切り型のような返し、そして結局、問いに答えていない。「多種多様だからダメだということではない」と言ったが、2018年12月28日に政府の関係閣僚合意として取りまとめられた「幼児教育・高等教育無償化の制度の具体化に向けた方針」には、「各種学校は、同法第1条の学校とは異なり、幼児教育を含む個別の教育に関する基準はなく、多種多様な教育を行っており、また、児童福祉法上、認可外保育施設にも該当しないため、無償化の対象とはならない」と明記されている。
差別の問題について話しているにもかかわらず、「あくまでも制度に則って決めたもの」という文科省職員のごまかしの返答からは、ずるさと不誠実さを感じた。
同じく要望書に名を連ねた「埼玉朝鮮学校を支援する会」の金子彰代表(埼玉教職員組合委員長)は、「子どもたちの学習権を侵害しているというこの現実をどう捉えていますか? 子どもたちの学ぶ権利が不当にも侵害されている。すべての子どもの学習権を保障するのが文科省の仕事じゃないんですか?」と尋ねた。
それに対して文科省の職員ははじめ、「ご指摘に関しては…持ち帰って共有させていただきます」と返答。室内では呆れた笑いが起きたが、金子代表は「持ち帰ってではないでしょう!」とたしなめた。「子どもたちの学ぶ権利を侵害しているっていう意識があるんですか?」とふたたび訊いた。
ここでなんと職員は「すみません、侵害というものをもう少し詳しく…」と一言。すでに諦めのような表情を見せる同胞もいたが、金子代表は説明を続けた。しかし職員は「ご指摘の点でいきますと、朝鮮学校の子どもたちに限定して何かをするというような仕組みになっているわけではなくて、幼児教育の質が制度的に担保された…」と再び冒頭の説明へ。何が問われているのか分かり切っていながら論点をずらし続ける態度を変えようとはしなかった。
埼玉朝鮮初中級学校の鄭勇銖校長も質問した。以下、やりとりを問答式に記録する。
校長「制度的に質が担保されていると仰ったが、文科省はその基準に照らし合わせて、朝鮮学校の“質”をぜんぶ把握しているんですか? 調べてもいないのに外すのはおかしくないですか? 一方で認可外保育施設とかベビーシッターも対象になるんですよね? その質は制度的に担保されているんですか?」
職員「そうじゃないんですよね」
校長「そうじゃないんですよね? なのに各種学校だけはじめから“制度”による制限がばっしり当てはまるというのは、矛盾が生じませんか?」
職員「それはちょっと複雑でして…」
校長「いや制度的には複雑なんでしょうけど、訊いていることはすごく単純明快。あなた方はなんの調査もせずに『制度的にダメ』というようなことをしていますよね」
職員「関係閣僚合意で当初決まった対象というのが『幼児教育の質が制度的に担保された施設』というところで切っているものですから、各種学校の制度として質が担保されていないというところが、やはりどうしても出てきてしまう…」
同じところに引き戻されるもどかしさの中、別の関係者も発言。「制度制度ではねちゃうとだめですよ。そういった言葉は聞き飽きていて、その制度を変えてくれというのが今回の要望書と署名。制度自体に不備があるから今回、調査事業も始めたんじゃないですか? そもそも制度がしっかりしていれば子どもたちが漏れることはなかった。制度が差別を生んではいけない。差別を生むような制度設計は本当にしない方がいいですよ」と職員の目を見据えて話した。
その後も発言が続き、最後に「幼保無償化を求める埼玉朝鮮幼稚園保護者連絡会」の李舜哲代表が思いをのべた。「僕たちには僕たちのルーツがあり、子どもたちにもそのルーツに誇りを持ってもらいたい。そういったことを学ばせたい。それは親として、人として当たり前の気持ち。もう一度考えてもらいたい。どの子どもも対象になる工夫をしてほしい」。
時間の関係で発言できなかった森田議員は要請後、「この地で生まれ育った子どもたちの居場所が保障されてほしいと思う」と自身の考えを話していた。
今回改めて、関連府省の職員たちは一貫して問題の本質に目を向けようとしないのだなと感じた。対応の場もどんどん形骸化しており、「その場をどうしのぐか」「どう納得させるか」という態度しか見てとれない。なぜ、目の前で困っている子どもや保護者のために建設的な意見が交わされないのか。
「制度」という言葉一つで議論を打ち切り、それ以上踏み込ませまいとする頑なな姿勢には異常性を感じる。上村議員の最後の追及や、埼玉の代表たちのような繰り返しの問いかけを止めず、矛盾点を世論化することが必要だろう。(理)