新型コロナウイルスの感染拡大によって世帯収入・アルバイト収入が大幅に減少し、修学の継続が困難になっている大学生などが増えていることを受けて、日本政府は5月19日、困窮学生を対象にした学びの継続のための「学生支援緊急給付金」を創設した。しかし、外国人留学生に対しては「成績上位3割を対象とする」といった要件が設けられ、朝鮮大学校（東京都小平市）などの「各種学校」は対象外とされるなど極めて差別的な制度設計になっており、「学びの継続を保障する」という趣旨に沿っていない。

同給付金に対して各方面から批判が沸き起こる中、5月29日、外国人を支援するNGOなどが文部科学省に対して、すべての困窮学生へ「学生支援給付金」を給付するよう求める要請を行った。

要請の後、参院議員会館で記者会見が開かれた。会見に先立ち、オンラインで集められた署名「外国人学生に日本人学生と同じ基準で現金給付をしてください！」が文科省の担当者へ手渡された。署名は29日時点で5万6800通が集まっている。

会見には、NPO「移住者と連帯する全国ネットワーク（移住連）」の鈴木江理子副代表理事（国士舘大学教授）、外国人人権法連絡会の田中宏共同代表（一橋大学名誉教授）、師岡康子事務局長（弁護士）のほか、朝鮮大学校の学生を含む外国ルーツの学生、留学生ら3人が同席した。

鈴木副代表理事は、この日の15時半から行った要請の内容について報告。「文科省が対象として見積もっている370万人の中で給付予定者が43万人というのがそもそも少なすぎる」としたうえで、その給付要件に含まれる問題点を以下のように指摘した。

・既存の支援制度をすでに利用しているということが前提になっているため、対象者が限定される

・留学生についてのみ、成績要件を設けている

・そもそも、文科省が見積もっている対象の中には、各種学校である朝鮮大学校が含まれていない

これらの点は「学びの継続の保障」という観点から見ると明らかに差別ではないかという問いに対して、文科省側から十分な回答はなかったという。

「2012年度の時点で、年間8万人近い中退者が出ていて、その2割が経済的理由によるものだ。新型コロナウイルスの影響がなくても経済的理由で学びを諦めなくてはならない学生がこれほどいた。ましてや、今回のコロナの影響で、学生たちは学びたいと思いながらも自らの思いを実現できず学校を後にしなければならない状況にある。また、留学生以外の外国人学生は、そもそもが奨学金の対象外となっている。また、日本人と外国人労働者を比べたとき、外国人のほうが間接雇用の割合が高く、コロナ禍において仕事を失っている困難な状況にある。学生たちを助ける十分な支援になっていない。」（鈴木副代表理事）

師岡事務局長は、今回の対象要件は日本が加盟している国際人権諸条約に違反しており、到底、国際的批判に耐えられるものではないとした。そのうえで、「朝鮮大学校の場合は、文科省がわざわざ公的に差別的要件を設けることそれ自体が、差別を広げてしまう。文科省が改めない限りは問題解決しない」とのべた。

田中宏共同代表は、「朝鮮人の民族教育を保障することは日本の歴史的責務だという原点を踏まえて考えてほしい」としながら、「新しい差別を作らせてはいけない」と強調した。

また、「『各種学校は、はなから外した』というのは、朝鮮学校に対する差別を無色透明で中立的に装うために必ず使う方法だが、きちんと認めていこうと思えばやり方はいくらでもある」とのべた。

会見に同席した星玖（シェイク）藤原愛紗さん（20）は、ペルー人の母とパキスタン人の父を持つ。日本生まれ日本育ちだが、奨学金などの既存の支援制度を利用していないため、支給対象者の要件に属していない。「奨学金に頼らず自分で学費を稼いで勉強を頑張っている学生もいる。私の周りにも同じような状況に置かれている友人が多く、中には休学や退学を検討している人もいる。国籍や成績で差別をしないでほしい」。

また、7年前に来日し、現在は上智大学大学院に通うダリマ・タマンさん（23）は、「生活費、学費を稼ぎながら学校に通ううちに、勉学だけに集中できず、成績が落ちる留学生がたくさんいるという現実をわかってほしい。（今回、定められた要件は）同じ大学に通っている日本人学生と外国人留学生の間に壁をつくっている」と訴えた。タマンさんは会見後も、「ウイルスは無差別なのに、政策は差別的だ」と憤りをあらわにしていた。

朝鮮大学校に通う崔さん（19）も、実家が飲食業を営んでいる友人は多く、新型コロナウイルスの影響で生活が困窮していること、学生の多くがアルバイトで学費や生活費を稼いでいることを挙げ、二重三重の負担がのしかかる中、学びを続けられるかどうかの崖っぷちに立っている現状を訴えた。（蘭）