”公人が民族的出自を攻撃” 李香代さん裁判、10月24日に判決
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大阪地裁に向かう李香代さん(右から2番目)と弁護団(7月10日、大阪市)
大阪府泉南市の添田詩織市議会議員からSNS上で在日朝鮮人の出自を攻撃されたとして、トライハードジャパン(THJ)役員で大阪朝鮮中高級学校元オモニ会役員の李香代さん(59、大阪府在住)が添田議員を相手取って損害賠償と投稿の削除を求めた訴訟(2024年5月提訴)の本人尋問が7月10日に大阪地裁で行われた。また証人尋問も行われ、原告・李さん側の証人として大村和子さんが発言した。裁判は結審し、10月24日14時に判決が言い渡される。
▼添田市議、反省の色なく
第9回期日を迎えたこの日、裁判が初公開された。
冒頭、李さんの弁護団が発言し、この裁判は在日朝鮮人である原告がその民族的出自を理由として標的にされ、可視化されたという「構造的な差別だ」と指摘。被告が、「外国籍」「朝鮮学校を支援している」「スパイの親族である」といった趣旨の言葉を並べ、原告が日本社会から排除されるべき人物であるかのように投稿したものには原告の実名、容貌が明瞭にわかる写真、所属先、出身校や家族関係といった情報が含まれており、受け手にとって原告の特定が容易であることは明らかだと指摘した。弁護団は、李さんが府庁前で朝鮮学校への補助金支給再開を求め街頭演説をしている写真などを並べた添田市議の投稿が、プライバシー権・肖像権・名誉権を侵害していると主張した。
添田議員は、李さんに関する発信は市の公金がしっかり使われているかどうかに関する「市民への情報提供だ」などとして最後まで反省の色は一切なかった。これに対し原告弁護団は、添田議員が何人もいる同社役員の中から李さんだけを選別し、攻撃の対象とした動機の「差別性」について、添田議員のYouTube動画などから追及した。
本人尋問で李さんは、添田市議の攻撃を受けた後に抱いた不安や恐怖を吐露しながらも、差別と闘う意思をしっかりと伝えた。「被告の投稿は曖昧な言葉を使いながらも、在日コリアンを貶める発信をしており、それ自体が明らかなヘイトです。その言葉がたとえ暴言でなかったとしても、そのような発信を続けることが偏見を助長し、排除の空気を正当化します。市議であり公人である添田市議が政治家としてこのような発言を繰り返すことは看過できず、社会として明確にNOを突きつけなければならない」。
この日、大阪、京都などから多くの同胞と日本市民が集まり、法廷で李さんの弁論を見守った。

支援者の出迎えを受け、笑顔を見せる弁護団(7月10日、大阪市)
▼コリアンへの「ねらいうち」が明らかに
裁判は、朝10時から15時過ぎの長丁場。李香代さんはこの日に向けて本人尋問の準備を進めてきた。添田市議に対面したのはこの日が初めてだ。Xで李香代さんの顔写真をさらし「犬笛」を吹いた公人は、反省の色を見せるどころか、自身の投稿を正当化するための言葉を並べ立てた。
添田議員は、李香代さんが役員を務めるTHJが同議員を訴えた2024年2月2日から李香代さんへの攻撃を始めている。
以下は、添田議員のXの投稿だ。
…
(李香代さんが大阪府庁前で朝鮮学校への補助金支給を求める写真などを4枚並べて)
トライハード役員で大阪朝鮮高級学校オモニ会役員の李香代(イ・ヒャンデ)
従兄弟は在日留学生捏造スパイ事件で死刑判決を受けた李哲(イ・チョル)在日韓国良心囚同友会代表
(李香代さんの写真を4枚並べて)
同一人物で間違いなさそうですね。
…
泉南市の公金がTHJに「不正に流されている」と主張してきた添田議員だが、数あるTHJの役員のなかで在日コリアンである李香代さんを選び、プライバシーをさらし、攻撃している。添田議員のXのフォロワーは8万人。自身は差別していないと言うが、添田議員の投稿には目も当てられない差別コメントが連なる。李香代さんの名誉はひどく貶められた。
李香代さんの顔写真と投稿をあげた動機について、添田議員はこのようにのべている。
朝鮮学校の授業料無償化を訴える活動を熱心に行うような人物が、泉南市から不適切な公金の支出を受け続ける企業の役員である者と同一人物であれば、市民からの疑問や反感もあるだろうと考えていた。
添田議員はこの日の法廷で、公金とはまったく関係のない朝鮮学校について何度も攻撃を続けた。
「結局、公金、公金と言いながらも、公金の問題につながらない。中国系企業の役員の中から李さんを選んでつるしあげたということが今回の弁論で一層よくわかった」と、原告側弁護士の一人は語る。
この日の尋問では添田議員が、原告の従兄である李哲さんが「スパイ容疑で死刑の認定を受けている」と発言する場面があった。この言葉に怒りのあまり机を叩いた李香代さん。
李哲さんは、1975年12月、高麗大学大学院政治外交学科在籍中に突如として中央情報部に連行されると、「北朝鮮のスパイ」にでっちあげられ、死刑判決を受けた(後に無期懲役に減刑)。13年間の獄中生活を経て1988年に釈放、帰日。2015年11月に再審で無罪判決が確定し、19年6月には文在寅大統領から謝罪の言葉も受けている。李哲さんは韓国の司法によって人生をめちゃくちゃにされた冤罪被害者だ。
添田市議は、李哲さんが「スパイ容疑で死刑判決を受けた」ことをSNS上にあげた点について「市民への情報提供のため」と正当化した。「再審無罪」の事実を知っていたにもかかわらず、「死刑判決」の情報だけを切り取ったところに添田議員の悪意がにじむ。李香代さんの名前を検索してあがってきた情報を、吟味もせず発信していることも、ためらいなく口にした添田議員。極めつけはこの質問だ。
添田議員側弁護士「従兄の無罪判決が喜ばしいことなら、堂々と公言してもいいのでは?」
李香代さんはこう答えた。
「13年間の獄中生活、死刑宣告、無期懲役、恩赦、そして40年かけてようやく無罪が確定したという、あまりに長く厳しい道のりがありました。
その苦しみを知っているからこそ、私たち家族は誰にでも軽々しく話せることではないと感じています。なぜ被告にまで晒されなければならないのか、理解できません」
李香代さんの顔写真4枚を並べて「同一人物で間違いないですね」とまるで犯罪者のように投稿した件については、
添田議員側弁護士「なぜこの4枚の投稿には反応したのに、他の写真には何もしなかったのですか? 認めているからですか?」
添田議員の質問の意図がわからず、聞き返した李香代さんは、攻撃を受けた後に家族が抱えてきた苦しみを吐露した。

弁論後に行われた報告集会にもたくさんの市民がかけつけた(7月10日、大阪市)

報告集会で話す大村和子さん(右)。李香代さんの証人として法廷で証言した
…
娘たちは本当に驚き、恐怖で震えていました。
長女は、「この人は行動がエスカレートするのが目に見えている。孫たちまで巻き込まれたらどうするの?」と泣きながら言い、「お母さんを守るのは私しかいない」とInstagramに怒りを込めて投稿しました。
私はそれ以上のことを娘にさせたくなかった。
被告のように誰かを傷つけたり、感情にまかせて罪を犯すようなことは絶対にしてほしくなかった。だから「止めて」と言いましたが、親として、子どもを守る娘の気持ちを責めることはできなかった。
この日、裁判官からは質問もなく、本訴訟は公開法廷での議論が尽くされないまま10月24日の判決を迎える。弁護団は最終準備書面をしっかり準備し、インターネット上の公人によるヘイトスピーチを根絶するため、「必ず勝訴したい」(田中俊弁護団長)としている。(瑛)