本を売りながら考えたこと
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1月30日にイオ編集部7冊目の本となる『18人が語る 私とコリアン』(月刊イオ編集部編、朝鮮新報社発行)を出版した後、大小の集会で本を売る、という仕事をしてきた。
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本が売れない―。
この悲鳴は出版の現場でよく聞かれる。数年前からの物価高、米問題もあいまって、一般家庭では食費がかさみ、家計のやりくりが大変だ。そんななか、売れなくなっているのが本だという。本はあってもなくても、という人は増えているし、ネット上の情報で満足という人もいるのはたしか。
しかし、この4ヵ月の間、日本各地の本部、支部、学校などから注文をいただき、また大小の集会で移動販売を行った結果、700冊!を売ることができた。『本は、これから』(池澤夏樹著、岩波新書)かも知れないという自信がついた。なにより、この本を手に取っていただいたすべての方々、販売に協力いただいたすべての方々に感謝します。
本の出版日は1月30日。
初の移動販売は、金剛山歌劇団の47年ぶりの沖縄公演で行うことにした。
十数年ぶりに那覇に降り立つ。
沖縄公演には日本各地から同胞や日本市民が訪れており、入場と同時に手にとっていただき、胸が高鳴る。購入を渋っている友人の手に本を持たせ、「はい買ってあげて」と導いてくれる方もいた。同級生との約20年ぶりの再会もあった。後日配送も含めてこの日売れたのは52冊。
なかには10冊、20冊と予約注文をしてくれる方もいた。同じブースに並べたイオ1月号、中村一成著『過ぎ去らぬ人々』『新版 日本の中の外国人学校』もそれぞれ2~3冊ずつ売れた。印象的だったのは、イオを繰りながら「こういう雑誌は見たことないなぁ」という表情をしていた30代の日本の男性の姿だ。

沖縄では金剛山歌劇団の販売ブースの隣に本の販売スペースを設けていただいた
さて、売れ残った本をどうするか。どうしても沖縄で普及したいという思いを抑えきれず、金剛山歌劇団沖縄公演実行委員長のPさんに10冊預けてしまった。押しつけがましいと思いつつ帰途につく。
たった1冊の時もあった
2月8日には、日本と朝鮮の民間交流を促進することを目的とした全国組織「日本と朝鮮を結ぶ全国ネットワーク」が都内で結成。総会が開かれた。
『18人が語る 私とコリアン』には、朝・日平壌宣言20周年に際した連載も収録されている。集会と本の趣旨が重なると踏み、いざ販売へ。結成総会には日本各地から約150人が参加。そこで初めて会った福岡のR顧問は、「映画上映会で売るから20冊送りなさい!」と元気づけてくれた。
移動販売で1冊しか売れなかった日もあったし、10冊以上売れた日もあった。
もちろん、重い本を持って現場に行くから、たくさん売って軽やかに帰りたいけれど、それはそれで仕方ないと思う。なぜ売れないのかを考え、そこでの出会いが次につながると思うようにする。
本の売上が伸び悩んだ時、思いついたのが委託販売だ。どうしても販売要員が少ないので、現場に協力を請うしかない。

尼崎朝鮮初中級学校での映画「ソリヨモヨラ」上映会でも販売していただいた。関係者の皆さん、コマプスムニダ
兵庫ではRさんが尽力してくれ、100冊を引き受けてくれた。
若い青年たちが集会に足を運び売ってくれているという。また、尼崎の朝鮮学校では校長先生が映画「声よ 集まれ」上映会で販売してくれ、売上を学校のチャリティに充てていた。お金を集める手法はいろいろあるけれど、気持ちよくお金を出してもらういいアイデアだな、その手段として本を活用していただけると思った。
東京・神保町のチェッコリさんや、広島のハチドリ舎に置くよう手配してくれたFさんやKさんにも感謝! 神戸や愛知県の図書館に置かれたこともうれしかった。
本に登場いただいた大学の先生や人権団体の方々も、職場や集まりで本を売ってくれている。ありがたき幸せ。
気持ちがつながる
この本は100人以上の方に寄贈したが、兵庫のK先生は、「誰もが知る著名人からしっかりと話を引き出す対話力を感じた。一冊にまとめることで、より効果が出るのでは」と感想を送ってくれた。
「アントニオ猪木の文章を読んだときには、涙が出たよ」。
平壌でプロレスをしている猪木さんの写真が大きくデザインされているページを繰りながら、愛知のY先生がつぶやいた。
インタビューは2012年のもの。猪木さんはもういない…。
朝・日の国交を結ぶために、これほど体を張った人はいないだろう。本は取材で出会った人たちとの記憶を呼び起こし、その時の空気や体温を運んでくれる。本をめぐるさまざまな思い出が、作り手と買い手の気持ちをつなげてくれる。
寄せられる感想は、嬉しいものから厳しいものまであるが、この反響こそ、販売へ向かわせるエンジンを私に授けてくれる。(瑛)