はじまりはオモニの声から
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「すべてのこどもたちが家庭の経済状況にかかわらず、質の高い幼児教育を受けることが必要」として、大阪市が2016年から実施している「幼児教育の無償化」政策。しかし、これが施行された当初から現在まで、朝鮮学校の附属幼稚班は対象から除外されている。
7月18日には、制度からの除外に抗議する緊急アクションが大阪市役所前で行われ(主催=朝鮮高級学校無償化を求める連絡会・大阪)、保護者、日本市民、同胞ら100余人が駆けつけた。
「私は一人ひとりに聞いてみたいです。朝鮮学校の付属幼稚園に通う子どもたちは子どもには見えないのでしょうか? それとも対象である子どもたちとそうでない子どもたちは何かが違うのでしょうか? 未来ある子どもたちのお手本である大人が、このように公な民族差別をして何も感じないのでしょうか?」
「私が小学生の頃にも、JR定期券の学生割引を朝鮮学校の子たちだけが受けられないということがありました。その差別に反対する署名運動をした結果、日本学校に通う子どもたちと同様に割引を受けることができるようになりました。これは身をもって実感した差別であり、権利獲得の勝利の瞬間だったことを今でも鮮明に覚えています」
急ぎ足で通り過ぎる人々に届くよう、丁寧に、切実にマイクアピールをするオモニたち。一人ひとり目を合わせてチラシを手渡そうとする同胞や日本の支援者たち。しかし、立ち止まったりチラシを受け取ってくれる人はなかなか多くはなかった。
「府庁前での『火曜日行動』など色んな場所で街頭宣伝をしてきて、チラシを受け取ってもらえないということにも慣れていたつもりだったけど、ちょっと心が折れそうになった。みんな自分で必死で在日朝鮮人のことなんて知らない。無関心さが全部伝わってきた」、そのように話すオモニもいた。
この問題に対する意識が生まれたのは制度施行前。「幼児教育の無償化」を国に先駆けて実施するとした大阪市の広報を目にしたオモニたちから「朝鮮幼稚班はどうなるんだろう」という声が上がり、役所に問い合わせたことから運動が始まったという。
同政策では認可外保育施設に通う子どもも対象とするとしており、市側は今年1月に保護者がした問合せに対し「朝鮮学校も含まれる各種学校の幼稚園も無償化の対象となる」という旨の回答をしている。しかし、6月には態度を一転。「国の施策が始まればそちらの制度に移行することになるので、各種学校の幼稚園に関しては検討をしないことに決まった」と、きちんとした説明もないままに検討を打ち切った。
「朝鮮学校は教育基本法に定められた『各種学校』です。民族のルーツを持つ子どもたちが民族の言葉で教育を受け、アイデンティティを育んでいます。日本の公教育と違うからといって、行政がそこへ通う子どもたちの人権を軽んじるのは親として納得できないし許せません。みなさん、おかしいと思いませんか? ひどいと感じませんか? お願いです。自分にいま直接関係がないからといって、スルーしないで下さい。朝鮮学校に通うということだけで、理不尽な行政のいじめを放置しないで下さい」
抗議アクションの場では、このようなオモニたちの声に呼応して、日本の支援者らもアピールに立った。
「僕は日本人です。差別って聞いて皆さんどう思いますか? 差別は、された人が訴えるのは本当に難しいと思います。僕はむかし高校の時に在日朝鮮人の彼女と付き合っていたんですが、当時は指紋押捺の問題があった頃で、彼女は市役所で職員に『ポンと押してねと言われた』と笑って話していましたけど、帰ってきてから泣いておりました。…差別の問題はいま頑張っている保護者たちの問題ではありません。子どもたちの問題でもありません。私たち日本人が作る日本社会の問題ではないでしょうか」
最後に、大阪府オモニ連絡会の代表たちが、「声よ集まれ、歌となれ」を合唱し、思いを届けた。
アクションには、奈良から駆けつけた同胞たちも。また、夏休みで地元に帰ってきている朝大生も横断幕を持って参加した。
文学歴史学部1年の邵娥蓮さんは、自身も城北朝鮮初級学校の幼稚班から民族教育に触れた。「朝鮮高校への無償化適用のための行動にも何度も参加してきたが、初めて幼稚班でもこのような差別があると知り、とても深刻な問題だと感じた。今日、この場にオモニと一緒にやってきた小さな子どもたちも何も分からないまま『おねがいします』とニコニコしながら頭を下げていて、本当に胸が痛かった。なぜこんな状況が日常化しているのか、アピールしたいという気持ちで立った」。
本日18時からは、府内7ヵ所で朝鮮学校への無償化制度適用を求める一斉街宣が行われる。同時に、補助金と幼児教育無償化の問題についても訴える予定だ。(理)