なぜ「同胞社会のために」と考えるか
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発売中の3月号の特集は「私たちの選択―進学、就職、起業―」。
卒業に入学、入社など新生活が始まる時季ということで、さまざまな在日同胞たちの進路選択に関する経験談を紹介した。登場するのは20代の若者から60代の同胞たち。成功だけでなく、失敗や挫折も含めたリアルな経験について聞いた。
在日朝鮮人の進路選択は「個人の希望」だけでは語れない、日本社会の構造、就職差別などの歴史的な要素が絡む。座談会では、在日朝鮮人の存在を見つめて進路を選択した若者たちが登場する。かれらに共通するのは、在日朝鮮人(と障害者)の生きづらさを解消するために、自らできることを模索して選んだことだった。
特集の中では深く触れなかったが、なぜウリハッキョ(朝鮮学校)を選ぶのか、なぜ在日朝鮮人・同胞社会のためにと言うのか。それだけでも一つ特集が組める。実際昨年7月号特集「コミュニティ、何を求める?」の一つの企画がそうだった。
3月号の連載「話題の人」では、今年1月に在日コリアンによる社会人サッカークラブ「FC KOREA」(東京)の新監督に就任した黄誠秀さんを取り上げている。かれもまた、「同胞社会のために」と今の選択をした一人だ。
「最近同胞社会が衰退していると言われる状況、ウリハッキョ(朝鮮学校)の学生数が減っている現状に一石を投じるきっかけになりたい」(黄さん)

黄誠秀さん
誌面にすべてを反映できなかったが、取材当日はその「なぜ」を掘り下げた。黄さんは「現状に満足している人もいれば、不満を持ってる人もいるかもしれない。それでもまずは育った環境に感謝することが大切だ」と説く。
朝鮮大学校を卒業後、ジュビロ磐田(J1)とザスパクサツ群馬(J2)、大分トリニータ(J3、2)でプレーした黄さん。「例えば、『サッカー選手になれたから結果論的にウリハッキョに通ってよかったと言えるのではないか』『同胞社会に何かしてもらったのか』という議論になることがある」と続ける。「ウリハッキョに通う最初の選択をしたのはアボジ・オモニかもしれないが、同胞社会の先輩たちが昔から頑張ってくれたからこそ、ウリハッキョに通うことができた。そこに通った時点で、まずは感謝する必要があると思う。この環境、日本にウリサラム(在日朝鮮人)として生まれた運命を受け入れたうえで、自分はどのように還元できるのかと考えたい」。
かれらは自己犠牲から「同胞社会のために」と語っているのではない。その言葉の根底にあるのは、自己を見つめた問題意識であり、自身を形づくってきた環境や人びとへの感謝であり、その延長線上に「還元」「貢献」という発想が自然と生まれている。
また、黄さんは「ウリハッキョは人数も少なくて、『足りないもの』をあげるとキリがないけど、その中で自分たちはどういう風に抗うのか。ウリハッキョに通い、ウリハッキョの部活動に入ってみんなで頑張った経験は一生ものの財産になる」とも話す。
特集ルポで登場いただいた金舜哲さん(「株式会社マサキ」代表取締役社長)もまた、人生で判断に迷ったときに、「自分がどういう人間でありたいか」と考えるほか、「朝大の同級生の方が自分より毎日頑張っているという意識で考える」という。
昨日、朝大の卒業式が行われた。ウリハッキョで友人たちと切磋琢磨して育ち、たくさんの縁を紡いだ経験を糧に、これから羽ばたいていく卒業生たちにエールを送りたい。(哲)








