劇団アラン・サムセの決意を見せた演劇『초혼(招魂)』
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10月9日から12日まで、東京・高田馬場で劇団アラン・サムセの演劇『초혼/チョホン(招魂)』が上演された。
私は初日の9日に観に行った。
作品は沖縄で暮らした在日朝鮮人女性二人の物語だ。
一人は日本軍性奴隷制被害者の裴奉奇(ペ・ポンギ)さん。ポンギさんは朝鮮半島出身女性たちの中で自身が日本軍性奴隷制の被害者であったことを初めて明かした人物だ。もう一人はポンギさんを支え続けた総聯活動家の金賢玉さん。ポンギさんがどのような人生を歩み二人はどのように出会って生活してきたのかが描かれる。
タイトルの言葉「招魂」とは何か? パンフレットには次のように書かれている。
「朝鮮の伝統喪礼儀式の一つ。/死者が生前に着た上衣を左手に持って屋根や庭に立ち、北に向かって死者の名を三度呼ぶ。/死者を繋ぎ留めたい生者の叫び。」

始まる前の舞台
物語はポンギさん(劇中の名前はペ・ポンソン)の葬儀の場面から始まる。物語の細かな内容は書かないでおきたい。
前半はポンソンの歩んできた人生が語られる。朝鮮半島での暮らし、なぜ被害者となってしまったのか、沖縄での生活…。非常に重たい内容だ。
後半は金賢玉さん(劇中の名前はキム・ヒョンスク)との出会いと交流の様子が描かれる。
物語のクライマックスは二人が心を通わせる場面だ。
人間不信となりかたくなに他人と接触を避けてきたポンソン。総聯活動家として拒絶されても何度も訪ねていくヒョンスク。
なんでしつこく来るのかというポンソンの言葉に、ヒョンスクは「朝鮮人だから」と答える。
パンフレットによるとこの公演の企画が立ちあがったのが2年前。制作にあたり沖縄で金賢玉さんと会って話を聞いたという。様々な資料も読み込んだことだろう。
観ていて物語のどこまでが事実でどこがフィクションなのかと考えていた。
朝鮮半島でポンソンは北極星を目印に北へ北へと歩いていく。これはどちらなのか。
全体として非常に重厚な物語となっている。これもパンフレットに書かれているが、ポンソン役を演じた金順香さんが「いなくなっていく在日一世、それに近い二世の話を演劇に」と提案したことが作品のスタートだった。
先代の足跡、仕事、覚悟などを引き継いでいこうというアラン・サムセ(3世)の決意を十分に感じた作品だった。
沖縄での公演をぜひ実現させてほしい。(k)








