院内集会「なぜいま日朝国交正常化が必要か」
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院内集会「なぜいま日朝国交正常化が必要か」(主催=日朝韓三国平和を考える会/2019年発足)が5月29日、東京・永田町の衆議院第1議員会館で行われた。
集会の主催団体は、「日本の敗戦と朝鮮の解放80年、そして日韓国交正常化-日韓条約の締結から60年になる今年、日本が植民地支配責任を認めないままに結んだ日韓条約が残した諸問題の解決、戦後80年が経過しても朝鮮民主主義人民共和国との間で国交を正常化していない異常な事態の打開などの課題が提起されている」と指摘。「植民地支配の清算のために、そして東アジア地域の平和のためにも、日朝の国交正常化が急がれる。なぜ今、日朝国交正常化が必要か、ともに考える」という趣旨で今回の集会は企画された。
集会ではまず、れいわ新選組の上村英明衆議院議員、沖縄の風の高良鉄美参議院議員、立憲民主党の有田芳生衆議院議員があいさつした。

れいわ新選組の上村英明衆議院議員

沖縄の風の高良鉄美参議院議員

立憲民主党の有田芳生衆議院議員
続いて、雑誌『世界』元編集長の岡本厚さん、東京大学名誉教授の和田春樹さん、一橋大学名誉教授の田中宏さんが報告を行った。3人の識者は、日本と朝鮮民主主義人民共和国との国交が切実だということを、長年関わってきた出版、学術研究、人権活動の経験から切々と訴えていた。
旧植民地と国交のない宗主国はあるかー
岡本厚さん
「なぜ、いま、日朝国交正常化なのか」と題して報告した岡本さんは、「『なぜ、いま』ではなく、むしろ『なぜ、いままで』正常化がなされなかったのかを問うことが大事だ」と問題提起。「旧植民地と国交のない旧宗主国があるのか」と問いかけ、▼朝鮮半島の北半分とは植民地支配の清算が行われておらず、▼朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化は日本にとって最後に残った「戦後処理」であること、▼朝鮮半島の北半分の人々との間で日本は150年間、「まともな関係」を持ったことがない。それが異様なことだという自覚がないことが異様だとのべた。

『世界』元編集長の岡本厚さん
岡本さんは日本による朝鮮半島植民地支配から朝鮮半島分断を経て、冷戦後の日朝関係にいたるまでの歴史を振り返りながら、1989年の3党合意、1993~94年の第1次核危機からジュネーブ合意、クリントン政権下での朝米関係改善。2000年の北南首脳会談、2002年の小泉首相訪朝と日朝平壌宣言など、この間何度か国交正常化のチャンスあったことに言及した。にもかかわらず交渉が進まなかった理由として、
▼安倍政権の「拉致問題3原則」(①「拉致問題」は日本の最重要課題、➁「拉致問題」の解決なくして国交正常化なし、③拉致被害者は全員生存している)によって交渉が不可能になった、
▼日米政府に「北朝鮮はまもなく崩壊するから時間稼ぎをしておけばいい」という意識があった、
▼日本には近代以来の朝鮮蔑視、差別意識が根強くあり、国交正常化を求める国民的な動きが弱かった、「日本人拉致」に基づく反朝鮮キャンペーンによって政治とメディアが自縄自縛に陥ったことを挙げた。
これらを踏まえて岡本さんは、
▼朝鮮は崩壊せず、経済的にも豊かになり始めており、時間は日米に有利に働いていない、
▼日米韓の圧力路線では限界がある、
▼「拉致問題」は相互の信頼なくして解決しない、などとのべながら、日本政府はこれまでの対朝鮮政策が間違っていたことを認め、朝鮮と交渉し関係を結ぶ必要があると主張した。
国交正常化へ国策もどせ
和田春樹さん

東京大学名誉教授の和田春樹さん
続いて、和田春樹さんが「拉致問題と日朝国交正常化」と題して報告した。
和田さんはまず、1991年から始まった国交正常化交渉の歴史を振り返った。そして、2006年6月に「拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律」(以下、「拉致問題対処法」)が可決、成立したことによって、拉致問題への対処が朝鮮との国交正常化をおさえて対朝鮮国策のトップに躍り出た点を強調した。この2ヵ月後に発足した安倍政権が拉致三原則を掲げて、国交正常化国策の無限先延ばし、拉致問題解決のためと称する朝鮮締め上げを開始し、それが今日まで基本的に継続していると指摘した。
和田さんは、「朝鮮の現政権との交渉を断絶するという表明である」と安倍三原則の本質を喝破。06年の「拉致問題対処法」と安倍三原則によって、拉致問題の解決が日本国の対朝鮮政策における最重要課題となったと指摘した。
そのうえで和田さんは、「隣国の政権を打倒して、初めて拉致問題は系決できるという路線から決別しなければいけない」「拉致問題解決第一から、日朝国交正常化へ国策を戻すことが必要だ」とのべた。
無償化適用、悲しみの声を伝え
田中宏さん

一橋名誉教授の田中宏さん
最後に、田中宏さんが「朝鮮高校排除のままで日朝国交正常化はできない」と題して報告を行った。
冒頭、田中さんは高校無償化制度から排除された朝鮮高校生徒の悲しみの声を紹介。「植民地支配によって奪われた言葉や歴史を回復するための営みが民族教育である。植民地支配した側がどういう責任を取るのか、その中で朝鮮学校をどのように位置づけるのか、私たちの側が問われている」とのべた。
田中さんは、民主党政権が打ち出した高校無償化法の画期的な意義について触れた。
そして、民主党政権末期から2012年末の安倍内閣発足と高校無償化からの朝鮮学校除外決定にいたるプロセスを振り返った。田中さんは、日本政府が朝鮮学校除外の理由として挙げた、規定ハの削除と「規程13条(適正な学校運営)に適合すると認めるに至らなかった」について、「『不適合と認められた』ではなく『適合すると認めるに至らなかった』とすることで、朝鮮学校側に問題があるかのように装っている」と除外のロジックの問題点を指摘した。
そのうえで田中さんは、この問題に関して当面とるべき措置と中長期的な課題について意見を表明した。まずは、朝鮮学校にも制度が適用されるべきだとする国連人権条約諸機関の勧告を受け入れ、速やかに朝鮮学校差別を解消すべきだと主張した。
続けて、すべての子どもについて差別的取り扱いを受けることがないようにすること、すべての子どもについてその最善の利益が優先して考慮されることなどをうたった「子ども基本法」と無償化除外との矛盾は避けがたく、朝鮮学校差別は許されないとのべた。
3点目として、規定ハの削除は、教育の機会均等という高校無償化法の目的に背反しているのでハの復活という「原状回復」を図り、朝鮮学校指定に向けた措置をとるべきだとした。
最後に、「朝鮮学校はなぜ自動車学校やそろばん学校と同じ各種学校なのかという朝鮮学校生徒の疑問にも答えるべき」だとしながら、「初等中等教育を外国語で施す外国人学校」を専修学校の中に加えることを提案。中長期的な視点から朝鮮学校の法的地位について考える必要性に触れた。(取材=李相英、張慧純)