チューペット
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連休のある朝(昼)。
起きたら午後3時で、パンを食べて、シャワーを浴びて、ぼーっとテレビを見ているうちに、「これじゃダメだ」と思い、着替えて、何の目的もなくとりあえず新宿に向かう。地元の駅までは自転車で、駅からは黄色い電車に乗って40分、6時過ぎに新宿に着く。
相変わらず人が多い、と思う。いろんな人がいて、いろんな目的を持った人がいる。そしてなかには何の目的もなく、ただ、新宿をにぎわせるためだけにうろうろしている人もいる。それはたとえば僕のように。そう思うと、自分という人間が、なんだか量産的かつ間に合わせの存在のように思えて悲しくなってくる。
「とりあえず何かしなくては」
との衝動に駆られ思い立ったのは、新宿から家まで歩いて帰ること。道はおおむねわかる。時間は腐るほどある。家に帰ってもやることはない。
よし、歩くか。
新宿を出発したのは7時過ぎ。道は、青梅街道だか新青梅街道だか、とにかく片道2車線の道をずっと真っ直ぐ。この日履いていたのは、夏も終わったというのにビーチサンダル。だからしばらく歩くと当然、親指と人差し指のあいだが痛み出す。それでも我慢し歩き続ける。
何キロあるんだろうか、と思う。どれくらいかかるんだろう。いつでも心が折れてもいいように、黄色い電車に乗れるように、どこらへんの駅付近を歩いているかを随時チェックする。
中野を過ぎ、荻窪を歩く。飲食店がやたら目立つ。それに比例して人も多い。この日も休みで次の日も休み。みんなすごく楽しそうだ。不意に、秋の肌寒い風が吹く。ロングTシャツ一枚しか着ていなかったから、いささか寒い。鳥肌が立ったと知る。そしてふと思う。また何で歩いてるんだ、オレは、と。
なんだか淋しくなる。誰かと話したくなる。誰と話すか考える。携帯電話の電話帳を開く。そしてある知人に電話する。
でない。違う友人に電話する。
でない。さらに違う友人に電話すると、3度目の正直。ほっとしながらも、他愛もない話を始める。互いの近況報告に始まり、共通の知り合いの消息について。
そして気付けば1時間30分。充電が切れて、会話は終了する。充電が切れる直前に時間を見ると1時43分。場所は田無、らへん。
いよいよ足が限界に達する。指が、ふくらはぎが、太腿が痛い。足が棒になった感覚は残念ながらないけど、力は入らず脱力状態で、ちょうど氷る直前のチューペットのような感じ。やがて腰も痛くなる、そして背中も。
この時間帯は当然、電車がない。実はずっと、黄色い電車に乗り継ぐタイミングを探していた自分がいて、電話しているときに駅の前まで行ったのにもかかわらず、歩いて帰ろうと決心を固めたあの瞬間を今さらながら後悔する。
いくつか知っている風景が目に飛び込んでくる。「やっと」的安堵と、「まだ」的失望が同居しては口からはため息ばかりが出る。とにかく足がやばい。疲労骨折という言葉が頭をよぎったが、バランスを崩してくじけばその瞬間にポキッっと折れそうな感じ。氷る直前のチューペットは、ねじればポキっと折れるのだ。
ここは確か、と思ったのは、右側の巨大な工場でかつて、アルバイトをしたことがあるから。ヤ○○キパンを作るバイト。仕事が始まって終わるまでの9時間、ずっと同じことばかりやらされた遠い過去を思い出す。バイトが終わり帰路につくとき、2度とやるまいと決心したっけ。
大学のとき、部活で使うシューズが欲しくて、1日だけここでアルバイトしたことを思い出す。親にねだればよかったのだが、飽きっぽい性格だと自分で知っていたから、自分で働いて買ったという既成事実が欲しかったわけで、もうあれから10年も過ぎたんだと思うと、なんだか切なくなる。
そんなことを回想しているうちに、左手側には小平霊園。幽霊やお化けといった、およそ迷信と呼ばれるものは何一つ信じないのだが、深夜に一人で霊園の隣を歩いて恐くないと言える人は信用できない。つまり恐い。霊園と僕の歩く歩道のあいだは鉄の柵。鉄と鉄のあいだは狭く、もちろん人が入れるスペースではないのだが、手だったら十分に入るスペース。だから厄介なのだ。
……と、もうアップしなければならない時間になったのと、おいしいオチが見つかりそうにないので、途中ですがここで……(泣)。
それにしてもしんどかった。この文章も、歩いたことも。家に着いたのは午前4時。新宿界隈で2回ほど道を間違えたのですが、結局、9時間ほど歩いたことに。家でおとなしくDVDでも見れば良かった、と思いました。
今さっき、近所に住む会社の先輩はかつて、東京駅から12時間かけて家まで歩いたと聞き、上には上がいるんだなと思いました。
ちなみにこの話、すべて実話です。(蒼)
ビックリです。
歩いて帰ると言う文章を 読み始めて 3時間くらいのお話かと 思ったら 9時間という結果に 本当に ビックリしました。しかも ビーチサンダルでなんて 思わず 笑ってしまいました(笑) 9時間も 歩く経験なんて そうめったに遭遇しませんよねっ。 お疲れ様でした(笑)
勝者?!
自分との戦いに勝ったんですね!^0^
うちの身内は自転車で
日本一周したとか・・・
その彼も西東京1なんです(笑);;;
オンマ部、華オンマさんへ。
コメントありがとうございます。
オンマ部さんへ。
歩き始めた当初は、4、5時間を予定していたのですが、9時間もかかるとは……。
運動靴を履いていって、走りながら帰ればよかったと、後悔しましたね。
ですがおそらく、しばらくは(半永久的)、事あるごとに、このことを武勇伝として言いふらすかもしれませんね(その思うと情けないですが)。
華オンマへ。
確かに自分と戦った感はありますね(笑)。私の場合、他人には一切勝てないんですが、頑張ればごくまれに自分には勝てたりするんです。
自転車で日本一週はごっついですね。そういう冒険を学生時代にやっておくべきだった……。
おもろいなぁ
ども。またきました。やっぱおもろいなぁ。蒼さんは。
実は私も歩き魔でして、よく歩いてます。
まぁ、呑んだくれて電車も金もなく(タクシーに乗れない)仕方なく歩くことが多いのですが。
この「チューペット」が歩く話だなんてね。
ちなみに私も最長は12時間くらいかな。山の手1周しました。
池袋から自宅までとか。
前のコメントへの回答もありがとうね。
私も書き出すとなかなか短くできないタチなので長かったよね。なので今日はこの辺で。
がんばれ!
bumさんへ。
コメント、ありがとうございました。
bumさんは歩き魔なんですか??
ブログではまるで歩くのは嫌い、のように書きましたが、僕も実は歩くのが好きで、ちょいちょい歩いています。
たとえば、嫌なことがあったら歩きますね。歩いているうちに忘れる、というわけではないのですが、解決するための時間ができる、からです。歩いているうちに嫌なことを忘れられるのは、幸福な詩人だけですね。
ちなみに僕は、終電がなくなりそうなときは、サウナに泊まります(笑)。
それと、コメント、全然長くても平気ですので、今度ガッツリ書いてくださいね(笑)
では、これからもイオ(月刊、日刊ともに)よろしくお願いします。