最初の記憶
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ある朝気持ちよく目覚めたとき
鼻をつく匂いのある場所はどこかと考え
それは陽の光でアタタかくなった雨戸からだと気付いたとき
不意に遠い昔が思い出されたのです
楽しみにしていた入園式を控えた朝
高熱にうなされそれが「川崎病」だと知ったのは病室で
紺の制服と黄色い帽子が白いガウンに代わったその日
「泣いている自分」を初めて見ました
泣きながら「幼稚園に行く」と叫ぶ僕に対して
怪訝な顔をしながら「ダメ」と言い張った母が
さながら壁のように思えたものだから
持っていたスプーンを力いっぱいに投げつけたのです
痛がるわけでも怒るわけでもなく
怒るわけでも痛がるわけでもなく
ハンカチを持って病室を出ていった母の残り香はどこか
秋の朝の雨戸の匂いに似ていました
……はぁ、早く仲直りしなきゃ。(蒼)