芝桜日和
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芝桜を見ながら、友人の1人がこうこぼした。
「なんか気分が晴れない。母とうまくやっていけなさそう……」
目の前の景色とは打って変わった発言だった。でも、家庭の事情に追い込まれているということを知っているだけに、筆者を含める周りはとくに驚かない。
花言葉好きのもう1人の友人が言った。
「もう20代後半だし、自分の幸せだけを考えればいいんじゃないの?」
5月の連休中、埼玉県秩父市の「芝桜の丘」に行った。 車で行ったのだが、その日は出発から激しい渋滞に見舞われ、着いたのは3時過ぎ。5時間もかかった。
入場料金が1人300円。駐車料金が500円。それが高いのか安いのかわからないけど、筆者ら4人は入園した。
広さが約16500平方メートルの「芝桜の丘」。ピンクや白や紫色など9種40万株以上だという。毎年拡張と増殖作業が行われ、それに比例するように来園者も増えている。
「そうだけど、やっぱり母とはうまくやっていきたい」
「その気持ちはわかるよ」
2人の会話は続いていた。
この日の天気は、あいにくの曇り。しかし前日の予報では「雨」だったので、運が良いと言えば運が良かった。
「早死にするぞ、気を使いすぎていたら。タッチのカッちゃんみたいに」と花言葉好きの友人が言う。
筆者ともう1人の友人は笑った。あんまり面白くなかったけど、傍観者としては笑うしかなかった。
「でも臆病だから無理だよ。耐えるしかできないよ」と、また嘆く。
「それ、芝桜の花言葉じゃん」と、花言葉好きの友人が突っ込みを入れた。
「芝桜の丘」からは、秩父市街地が一望できる。景色に疎い筆者でさえも、それは絶景として眼に映っていた。
「知ってる。だから言ってみただけ。どうせ――」
どうせ、最初からもう答えはでていたのだ。
帰りはみんなで温泉に入った。入浴料が1人1000円もかかった。
渋滞は上手くさけることができた。でもガソリンはかなり使った。
「でも、やっぱりカッちゃんにはなりたくない」
「知ってるよ」と、誰かが答える。
「今日は楽しかった。気分が晴れたよ」
「知ってるよ」と、誰かが答えた。(蒼)