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TPP交渉への参加は人々を豊かにするのだろうか― 自由貿易の利益と不利益

  康明逸●朝鮮大学校経営学部助教 本連載の最終回となる今回は、日本政府が今年3月に交渉参加を表明した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を考えるために、自由貿易にまつわる経済学的知見についていくつかのべたいと思う。 国際分業の在り方を考えるとき、単純に、他国よりも生産性の高い財に特化すれば、貿易による利得を最大化できると考えがちである。しかし現実には、産業技術水準が高くあらゆる財の生産性で優位(「絶対優位」)に立つ国と、そうでない(「絶対劣位」にある)国との間にも、分業に基づいた貿易が成立する。これは、同一産業同士の生産性比較のみでは国際貿易のメカニズムを解明し得ないことを意味する。 経済学では、ある産業の同国内他産業に対する相対的な生産性を国家間で比較し、そこで優位(「比較優位」・キーワード参照)に立つ産業に資源を集中することで、貿易のない閉鎖経済よりも多くの富を獲得できると主張する。この場合、全ての産業で国際的に絶対劣位に甘んじている国であろうと、比較優位にある産業を見つけ特化することで、貿易による利益を享受できる。  

円安の是非を考える

  康明逸●朝鮮大学校経営学部助教 1ドル=97.9円。本コラム脱稿時の円ドル為替相場である。昨年の同時点では77.9円だったので、円通貨の対ドル価値は一年間で26%も下落した計算だ。一般的に円安は、日本経済にとって有利だと言われることが多い。自国通貨価値の減価は海外における自国製品(輸出製品)の価格低下へと繋がるため、海外需要増が国内経済にとって好条件となるからである。 「『アベノミクス』の『3本の矢』、なかんずく大胆な金融緩和で、それまで円高・株安に苦しめられていた状況を一気に脱し、円安・株高を短期間で成し遂げたのは、『業績評価』になったと言えよう」(自民党メールマガジン2013年8月23日)と、与党内でも円安を「導いた」経済政策を自賛する声は多いが、果たして、昨今の円安は、現行政権の政策の「成果」であり、また日本経済にとって良い状況を招いていると言い切っていいものなのだろうか。  

「大胆」にも根拠乏しい金融政策

  康明逸●朝鮮大学校経営学部助教 第2次安倍政権が発足して以降、同政権は①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略の三つを経済運営の基本方針として掲げた。毛利元就の「三子教訓状」にまつわる故事になぞらえて「三本の矢」と力む安倍氏ではあるが、選挙地盤の藩祖の威光と裏腹に、その効果について有識者からの異論は多い。今回は安倍氏の三つの経済政策のうち、一つ目の金融政策について見てみたい。  

後悔の先に立つ行動経済学:転ばぬ先の杖を手にしよう

  康明逸●朝鮮大学校経営学部助教 ダイエットにあえなく挫折してぽってりとしたお腹を恨めしげに眺めたり、若いころ覚えたたばこやお酒、ギャンブルのような悪習となかなか縁を切れず、「これがないと人生つまんないんだよね…」と自己慰安してはいないだろうか。経済学では近年、一見非合理と思えるような人々の行動に焦点を当てて、それを誘発するメカニズムを明らかにする研究が精力的に行われている。行動経済学と呼ばれるこの分野では、数学、社会学、心理学、脳科学、生物学などといった幅広い学問領域における知見を経済学に取り込みながら、人々の意思決定の絡むあらゆる事象に肉薄している。 筆者は行動経済学の中でも、特に「異時点間選択」と呼ばれる、人々の時間をまたぐ意思決定に関わる分野を専門としている。異時点間選択とは、計画の必要となるような現在から将来にわたっての意思決定や、現在の行動の帰結が時間の経過した将来に現れる選択のことである。体格形成、中毒財消費、美容や医療行為、健康投資や貯蓄負債行動など、その分析対象を挙げればきりがない。  

親の失業の弊害とウリハッキョの可能性

  康明逸●朝鮮大学校経営学部助教 筆者の勤める大学の学生たちは学内の論文コンテストを控える6月になるとにわかに活気づく。応募する論文の指導のために、担当する学生に空き時間を聞いてみると、済まなさそうに「夜の11時ごろになってしまっても大丈夫ですか?」との返事が返ってきた。教員の私生活を顧みない提案に半ば呆れながらも、過去そんな時間にまで指導してくれる先生たちに巡り合ってきたのだということに気付かされ、自分の気持ちが引き締まりもした。学生委員の重責とともにアルバイトやクラブ活動など、大人顔負けの多忙な日々を送る学生たちのこと、私事に基づく提案ではないと判断し、深夜の指導を承諾することにした。  

行動意欲を引き出す秘訣:言葉はお金を超えられるのか?

  康明逸●朝鮮大学校経営学部助教 山本周五郎の短編に「経済原理」という作品がある。作品中唯一の成人である主人公の「売ってくれ」という不用意なひと言から、無心に魚捕りを楽しむ少年たちの童心に商人根性が芽吹き肥立ってゆく様を、人間味溢れる豊かな筆致で描いている。作中の子供たちに限らず、外界の誘因(インセンティブ)に敏感に反応しながら自らの行動を調整するのは、老若男女に通底する行動原理でもある。一般に、自らの行為そのものがもたらす楽しみや喜びを希求する心理的特性を「内発的動機づけ」と言う。他方、報酬や外的圧力、強制などのような外部の誘因に反応して行動へと至る心理特性を「外発的動機づけ」と呼ぶ。誘因の変更は、これら動機づけの変化を介しながら、人々の行動に修正をもたらす。以下にいくつかその例を挙げてみる。  

円安はなぜ起こるのか

  康明逸●朝鮮大学校経営学部助教 昨年11月15日、野田首相(当時)が衆議院を解散する前日の円ドル為替レートの終値は81.14円。それが政権交代後1ヵ月で90.9円、今では100円を超えそうな勢いである(4月末時点)。対ユーロ相場でも円安傾向は顕著で、1 €(ユーロ)110円前後で安定的に推移していたものが政権交代後1日にして113円台へとジャンプ、今では130円に迫っている。対ドル、対ユーロともに、円通貨は5ヵ月あまりで18%も減価したことになるのだが、半年にも満たぬ短い期間に技術革新や産業移転のような国際的な分業構造を変えるような劇的なイベントが起こったわけではない。なぜこのような為替相場の変動が起きるのだろうか。  

不況期に若者と中高年は何を思うのか-年齢効果と置換効果の超克の中で

  康明逸●朝鮮大学校経営学部助教   3月から4月にかけては労働市場での人的資源の再配置が最も盛んな時期である。筆者の職場でも少なくない同僚が定年、転職、結婚などを契機に職場を離れ、新しい人生の旅立ちをした。今回は前号に続き、労働市場にまつわる話をしようと思う。  若年世代の雇用は、ただ単に当該世代の所得を生み出し生存の原資を与えるのみでなく、将来生産の中心的担い手を育てるという意味で、非常に重要な意味を持つ。若年雇用については1990年代以降、学力や能力格差に起因する経済格差の存在や、高い失業率水準が注目されている。また、若年就業者の高い失業確率や離職率も指摘されている。実際、若い世代の高失業率の多くの部分は、「世代効果」に起因する高い離職率で説明できるとも言われている。「世代効果」とは、不況期に新規採用が減少することによって、たまたまその時期に卒業を迎える「世代」の職業選択の範囲が狭まり、求める仕事に就ける確率が低くなる結果、就職後の離職率を引き上げるというものである。逆に、好況期の新卒世代は、自分の望む仕事に遭遇する確率が高まるため、将来仕事を辞める確率が低くなり定着率が高くなる。つまり、就職時の景気動向によって生じる雇用のミスマッチングが、不況期新卒者の離職率を必然的に高めるというものである。

冬来たりなば春遠からじ-雇用統計から見る同胞社会

  康明逸●朝鮮大学校経営学部助教   新しい出会いやまばゆい決意がやにわに社会を活気付ける季節であるが、雇用情勢は依然として厳しい。2010年度の国勢調査から明らかにされた日本の完全失業率は6.4%、若年層である15~19歳と20~24歳ではそれぞれ18.8%と9.9%にものぼった。働く意思のある20歳未満の10人に2人、20代前半では10人に1人が定職につけていないのだ。この数値は「全く働いていない」人たちの比率であるため、アルバイトのような非正規雇用も含めるとその値はさらに高くなる。4月の春和景明を横目に、社会人としてのスタートラインにすら立てない当事者たちはもちろんのこと、多くの苦労の末に子供たちを育て上げた保護者の方々の忸怩たる心中は察するに忍びない。

妻と息子とGDPと-あなたの幸せはどう決まりますか?

  康明逸●朝鮮大学校経営学部助教   第一子を出産後の妻の奮闘ぶりには驚かされる。仕事、育児、家事を万全にこなし、親戚・近所への気遣いも怠らず、ニョメン(女性同盟)の分会委員まで務めるのだ。自分自身のことはいつも後回しである。息子の2歳の誕生日を迎えながら、妻への労いの気持ちが溢れると同時に、仕事や付き合いにかまけてしまいがちな日常を顧みる日々である。  妻本人は案外と無頓着なのであるが、彼女の一日の活動の中で、仕事以外の部分が日本のGDP(国民総生産)に勘定されるようなことはない。GDPとは、国内における1年間の経済活動から新たに創出された価値を足し合わせたものであり、財・サービスの市場価格から計算される、一国の経済規模をあらわす最も代表的な経済指標である。炊事、洗濯、掃除、買い物のような家事や育児、介護や社会活動など、報酬を伴わない無償労働はその中に含まれないのだ。これは何も、その種の労働や担い手を蔑んでのことではない。家事や育児などの金銭的対価を伴わない労働は、その価値を市場価格から正確に算出することが困難であるため、計算項目から除外されているだけのことである。

安倍首相、金融政策に対しても唯我独尊ですか?

  康明逸●朝鮮大学校経営学部助教   首相に復帰した安倍晋三氏は就任早々、日本銀行に対して2%の物価上昇(インフレ)を政策目標として受け入れるようけん制し、今後さらには雇用に対する責任をも課すと主張した。内閣の持つ日銀総裁の任命権と日銀法の改正をちらつかせながら、脅迫さながらに自らの政策を中央銀行に押し付けようとしているのだが、「中央銀行の独立性」を脅かす彼の主張は非常に危ういものである。  国の経済政策は、財政政策と金融政策に大別できる。財政政策を担う政府は、税制や社会福祉制度を織り交ぜながら、所得再分配を推進し経済の公平性を高めると同時に、公共事業によって雇用と有効需要を創出し、景気を刺激する。金融政策を担う中央銀行は、金利や貨幣流通量の調整を通じて、物価を安定させることをその使命としている。物価水準と通貨価値は背中合わせであることから、中央銀行は「通貨の番人」と呼ばれることもある。

バブル崩壊から「失われた20年」へ

  康明逸●朝鮮大学校経営学部助教   2歳になろうとする息子の将来のために学資保険を探していた。驚くことにいくつかの商品は「返礼率」(払込総額の将来の支給総額に対する比率)が110%以上。20年ほどで元本が約1割以上も増え、生命保険まで付いてくるのだ。年利換算するとおよそ1.25%。超低金利時代、預金するよりはだいぶ得だと思いながらも、ふと金利や物価動向に対する不安が頭をよぎった。学資保険は、保険会社の倒産リスクや契約者の死亡リスクを除いた貯蓄性だけで考えると、加入時点で将来の受取額が決まる固定金利型商品、物価変動が生じても支給額が変化しない非「物価スライド」型の貯蓄商品であるから、将来の物価や金利の上昇により受取額の実質価値がいくらでも目減りしてしまうリスクを抱えてしまうのである。子供の学費は20年以上の長期の資産形成と関わる問題。未来予測とまではいかなくとも、現在の経済状況に対する若干の知識ぐらいは持っていたほうが良さそうだ。  

高校無償化本2

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